学園設定(補完)

□同級生−その4
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#86

作成:2018/12/14




土方十四郎は何か物音がしたような気がしてゆっくりと目を開けた。

体はまだ熱くだるく、頭はぼんやりしている。

今日はクリスマスイブ。

ここ数年は隣の坂田家と一緒にパーティーをするのが恒例となっていたが、今年は自分の部屋のベッドの中にいる。

風邪をひいて十四郎が寝込んでしまったのをいいことに、多忙の父は仕事へ行き、母もやはり風邪で倒れた人がいるとかで手伝いに行った。

だが、何かあったら隣の坂田さんが来てくれるし、ベッドで寝ていることぐらいできるから一人でも平気だ。

それでも目を覚ましたときに誰も居ないのはやっぱり心細かった。

このまま熱が下がらなくてせっかくの冬休みが台無しになったらどうしよう、なんて考えていたら、また物音が聞えてきた。

音のしたほうに視線を向けると、カーテンは開いているが外が暗いので何も見えない窓がある。

そこに何かコツンコツンとぶつかる音のようで、ベランダに何かあるのだろうかと見つめていたらその音は段々激しくなり、おまけに、

「……とうしろぉぉぉぉ、開けてぇぇぇぇ……」

悲壮感たっぷりの声が聞えてきた。

十四郎のぼんやりしていた意識はハッキリして、慌ててベッドから降りて窓へ駆け寄る。

鍵を外して窓を開けると、もふもふした銀髪の少年がガタガタ震えながら部屋に飛び込んできた。

「さささ、寒いぃぃぃぃ、ものごっさ寒いぃぃぃぃ」

「銀時っ、お前なんでベランダに……」

ベランダには仕切りがあって行き来ができないようになっているはずだが、

「そ、外にはみ出して渡ってきたんだけど……か、鍵が掛かって開かないんだもん……」

危ない方法で乗り越えてきたのに締め出しをくらって震えていたようだ。

もこもこに上着を着こんでちゃんとマスクまでしている銀時は、現状を思い出したようで、慌てて十四郎の身体を押す。

「ご、ごめんな、起しちゃってっ。ほら、まだ熱があるんだろ、寝なきゃ」

十四郎をベッドに突っ込んで布団を正してから、安心したように息をついた。

自分の熱ですぐに暖かくなった十四郎は、そんな銀時を不満そうに睨む。

「……来ちゃダメって言われてるだろーが」

「大丈夫。ほら、ちゃんとマスクしてるから。帰ったらうがい手洗いもするし」

予防知識を披露してから、銀時は持っていた紙袋から甘い匂いのするタッパーを取り出した。

「じゃじゃーん。今年のケーキ、すっげー美味かったら十四郎にも持ってきたぞ!」

甘い物が大好きな銀時は嬉しそうにそのケーキを見せてくれる。

タッパーに詰められてたし、ベランダを渡ってくるときに傾いてしまったし、中身はぐちゃぐちゃだった。

だけど本当は独り占めしたいケーキを、こうして持ってきてくれた。

それだけでさっき感じた寂しさが吹っ飛んでしまった気がする。

が、銀時が持参したスプーンでぐちゃぐちゃケーキをすくい、

「はい、十四郎、あーん」

とやられたときには少しイラッとしてしまった。

甘い物はあまり好きじゃないし、風邪をひいてるときにもったりとした生クリームはきつい。

「…………いい。お前が食えよ」

「えー……でも……」

「……俺はまだ食えそうにないから、もったいねーし、お前が食っていい」

そう言われてしばらく悩んでいた銀時だったが、"もったいない"と言われたら仕方ない。

「……じゃあ、いただきまーす」

椅子を引っ張ってきて十四郎のベッドの横で美味そうにもっさもっさと食べ始める。

こってり甘ったるいニオイは不快だけれど、クリスマス気分を満喫できた。

「来年は一緒に食おうな」

銀時がそう言うので、十四郎もそうなることを願うのだった。


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