原作設定(補完)
□その39
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小ネタ 近藤
ある日、銀時は気が付いた。
半同棲生活を初めてから、ときどき土方が米や野菜を持って帰ってくることがある。
自分で買ってきたというのでありがたく家の食材にしていたのだが、最近それが頻繁になった。
おまけにちょっと内容も豪華になってきて、牛肉だの蟹だのメロンだの持って帰ってくるのだ。
さすがに“買ってきた”は無理があるだろう。
銀時がなにも言わないでいるけれど、土方もなんだか気まずそうだし、そろそろ問い詰めてやったほうが良いかもしれない。
「土方くんさー、これ、食べたくて買ってきたの?」
サシがたっぷり入ったこってり和牛のパックを見つめながら、一服しようとしている土方に訊ねた。
銀時も土方も庶民派なので、肉は赤身の食べごたえのあるほうが好きなはずなのに。
聞かれて土方は動揺しながら言い訳してきたが、
「た、たまにはそういうのも良いだろ」
「ふーん?」
素っ気ない銀時の返事に、“もう限界かな”という情けない顔をする。
なので銀時も白状しやすいように促してやった。
「ん?」
「……じ、実は……こ、近藤さんが……」
「ゴリ?」
ようやく隠し事をしていた心苦しさから解放されて、土方はほっとしたように話し出す。
「ちゃんと飯は食ってるのか、とか、外食ばっかりじゃないのか、とか心配するから、てめーが作ってくれる、って言ったら、じゃあコレもアレも持っていけって言い出して……」
『おかんか!』
「は、母親じゃねーんだからって……なんだか気恥ずかしくて言えなかったんだ……悪い」
土方は恥ずかしそうにそう言ったが、隠してた理由はきっとそれだけじゃない。
近藤があれこれ心配してくれるのが嬉しかったのだろう。
『ほぼ毎日仕事で会うくせに、どんだけ近藤のことが大好きなんだ』
とイラついたので、これからも遠慮なく近藤からの差し入れを食ってやろうと思う銀時だった。
小ネタ、定春
銀時一人の依頼から直接部屋に戻ってきた銀時は、玄関の鍵が開いていたので先に待ってる土方に、
「ただいまぁ、遅くなってごめーん」
なんて言ってみたら、中から思いもよらぬ声が返ってきた。
「わん!」
「!!!!?」
狭い部屋が余計に狭く見えるサイズの犬が、どーんと部屋の真ん中に居座っていた。
隣で申し訳なさそうな顔をしている土方が小さく見える。
「……あれ? なんか定春に似たでかい犬が見える……気のせい?」
「定春だよ」
「ですよね、あんな犬がゴロゴロいたら困りますもんね……って、ちょっとぉぉぉ! なんで定春がここに居るんですか!?」
「それが……帰ってくる途中でチャイナと定春に会って……こいつがなんでか俺から離れたがらなくて……」
土方は理由が分からず困ったような顔をしているが、銀時はその理由を知っている。
うちの子達はどいつもこいつも土方が大好きで、定春も例外ではない。
万事屋に来なくなった土方にばったり会うことができたので、甘えたくなったのだろう。
土方も困った顔をしながらも、久しぶりの定春のもふもふーっとした毛並みを撫で回していた。
どうやら神楽は定春を土方に押し付けて帰ってしまったようだし、着いて来てしまったこの巨大な犬を追い出せるはずもない。
「……ま、いいけど」
諦めた銀時がそう呟いたら、
「だってよ。良かったな、定春」
「わん!」
土方は嬉しそうに定春といちゃいちゃするのだった。
はじめから泊めるつもりだったのか、土方はちゃんと定春のドッグフードまで買ってきていたし、ご飯を食べてしばしくつろいだ。
定春が離れたがらないので、土方は楽しそうに相手をしている。
それはいい。
それはいいのだが、土方は明日非番で休みなので、まあなんというか、恋人らしくイチャイチャする日、だったりするのだ。
週の半分を一緒に暮らしているからといって、毎回行為に及んでいたら土方の身が持たない。
なので“Hは非番の前の日”と暗黙のルールができていた。
それを楽しみにしていた銀時だったのに、土方と定春の様子を見てると言い出しにくい。
『……ま、定春が寝てからでいいか……』
そう思って今は土方の隣の座を譲っていた銀時だったが、数時間後、先に風呂に入って出てきたら、がっくりと項垂れる光景が待っていた。
土方が、寝ている定春の体に突っ伏すようにして抱きついて、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。
その満足げな寝顔は、起こすのが忍びないほど幸せそうだ。
最後まで定春に良いところを奪われてしまったが仕方ない。
定春の体温だけで十分暖かそうだったが、念のため毛布をかけてやりながら土方の寝顔を堪能し、銀時は小さく笑って肩を竦めながら一人布団に入るのだった。
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