原作設定(補完)
□その39
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#389
作成:2018/07/11
その日、万事屋一行は気合充分だった。
「銀ちゃん! あそこの公園に入っていったアル!」
「でかした、神楽っ!」
「北沢さんちのクロスケ、絶対捕まえますよ! 今晩の夕食のために!」
が、気合とは裏腹に目標は小さく、叶う願いもささやかなものだった。
久しぶりの依頼は猫探しで、3人は公園に飛び込むと慎重に猫が隠れそうなところを捜索する。
一応念のために、
「神楽っ! 見つけても手加減しろよっ! 握りつぶしたら今日も酢昆布なしだからなっ!」
「分かってるアル!」
注意もちゃんとしておいた。
遊具が4つの小さい公園だったが、木がたくさん植えてあったし、季節が夏なのでもっさりと生い茂っていて探すのに手間取る。
三人でバラバラになって探していたら、
「捕獲ぅぅぅぅぅ!!!」
「捕まえたアルぅぅぅ!!!」
銀時と神楽がそう叫んだ。
別の方向から。
捕獲対象が二匹いるはずもなく、
「え!? ちょっ、何を捕まえたんですか!?」
確認する新八の声に、植木の中から出てきた銀時の手には黒い猫がいた。
間違いなく捕獲対象の猫で、となると、神楽が捕まえたのは……。
2人に見つめられながら姿を現した神楽の手には、猫よりはるかに大きい、でも小さな子供が捕まえられている。
だが「子供じゃねーか!」とツッコミを入れることはできなかった。
その子供は白地に黒いブチ模様のワンピースを着ていたが、頭には小さな角があり、垂れ下がった耳があり、尻には左右に揺れる尻尾があった。
『何これ、やだこれ』とぽかんとする銀時と新八に対し、神楽はがっかりしたように言う。
「なーんだ、牛アル」
「え……牛? 牛……か?」
「牛のコスプレをさせられた迷子……とかじゃないですか?」
3人は集まって改めて神楽に捕まえられた子供を見る。
銀時がそーっと耳を摘まんでみると人肌のように温かく、引っ張ってみると子供は痛がって顔をしかめたし、付け根もちゃんと肌にくっついていた。
ぱっと離して新八と顔を見合わせる。
「……う、牛?」
「で、でも人にも見えますよね……それに……」
「それに?」
「…………ひ、土方にさんに似てませんか?」
「はぁ!?」
新八が突拍子もないことを言い出したので、銀時は改めて子供を食い入るように見つめた。
黒いつぶらな瞳、可愛い顔立ち、ちょっとくせっけの髪質、それとV字の前髪。
「お、多串くんんんんんん!?」
そっくりと気付いただけで銀時の胸はときめくが、そんな場合じゃない。
他人の空似とは思えないぐらい土方にそっくりな子供がいるということは、
「……マヨラ、牛だったアルか?」
「んなわけありませんんん!! 頭に角も耳も、尻に尻尾だってありませんでしたぁぁぁ!!」
「じゃあ、母親のほうが牛……」
「多串くんにそんな趣味はありませんんんん!! 怖いこと言うんじゃありませんよコノヤロー!!」
土方の子供ではないかと動揺する銀時に対し、新八は別なことに着目していた。
「……そういえば、今日、真選組のパトカーをあちこちで見ませんでしたか?」
「そ、それがどうした」
「もしかして……この子を探してるんじゃないでしょうか」
「あいつら公認の隠し子アルか?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! 違う、違う、違うと言ってぇぇぇ!!」
さらに動揺する銀時だったが、
「そうじゃなくて……もしかして、この子……土方さん本人、だったりしないかなーなんて」
新八がそんなことを言い出して我に返る。
いろんな星の天人がやってきてからなんでも有りのこの世界と、土方に対してなんでも有りだとイタズラを仕掛けるドS王子。
そのせいで土方がこんな風になってしまった、なんて可能性もなくはない。
新八は神楽の足元に立っている仔牛に話かけた。
「えっと……あなたは土方さんですか?」
だが仔牛は意味が分からないという顔で傾げる。
「……じゃあ…………名前、言えるかな?」
続けて問いかけた新八に、躊躇いながらも仔牛が答えた名前に、
「……とうしろう……」
「!!!! お、おお、多串くん!!? 大変だっ!!」
再び銀時が動揺し始めるので、新八はやれやれという顔で溜め息をつく。
土方のことになると冷静になれない銀時を見るのは、なかなか楽しいものだ。
「銀さん、落ち着いてください。とにかく電話してみませんか?」
「そ、そうだ! 電話!!」
「万事屋に戻ってかけたほうがいいんじゃないですか?」
「そ、そうか! じゃあ、すぐ帰……この子、どうする?」
「連れてったほうがいいですよ。そのままじゃ目立つから銀さんの着物に包んでいきましょう」
「分かった!」
銀時は新八の提案を素直に聞いて、着物を脱ぐと仔牛を見えないように包んで、急いで万事屋に戻った。
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