原作設定(補完)
□その39
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#388
作成:2018/07/10
森の中をうだつのあがらないサングラスに髭の男が歩いていた。
手には斧が握られている。
男は町である噂を聞いた。
遠い街で、正直で働き者の男が泉に斧を落してしまい、そこへ泉の精が現れ、「お前が落したのはこの金の斧か、銀の斧か」と尋ねられ、正直な男が「いいえ、普通の斧です」と答えると「正直者のお前には全部の斧を与えよう」と、金の斧と銀の斧を貰った、という話だ。
それを聞いた、無職で何をやっても上手くいかないこの男は、同じ手で金と銀の斧を手に入れ、別居している妻にプレゼントしてやろうと考えた。
ワクワクしながら森の奥のそれっぽい泉に辿り着いたところで、何やら後ろから騒がしい声が聞えてきて、男はさっと木の後ろに隠れる。
「うるせぇぇぇぇ!!このまるでダメな男、略してマダオがぁぁぁぁ!!!」
「ちょっ、まっ、ひじかっ……うわぁぁぁぁぁ!!!」
その大声と同時に、銀髪のモフモフの男がびゅーんと空中を飛んで、奥の泉にどぼーんと落ちた。
先を越されてしまったが丁度良い。
噂の通り泉の精が現れるのか確認できると、男は木の陰から様子を伺った。
「ぶわっ! お、俺、泳げな……ごぼっ……」
泉に落ちた銀髪の男は必死になってバチャバチャもがいたあと、ブクブクと泉に沈んでいった。
それに気付いた短髪黒髪のイケメンが慌てて泉に駆け寄り、中を覗き込もうとする。
そのとき、泉からぶくぶくと気泡が湧き出て、水の中から姿を見せたのは泉の精っぽい格好をした茶髪の若い男だった。
その手に……ではなく、背後に二人の男が立っている。
「あなたが落としたのは働き者でチャラい金時ですかぃ? いい加減で適当だけど一応公務員の銀八ですかぃ?」
ドSっぽい笑顔を浮かべた泉の精は、金髪のホスト風の男と、メガネでだらしない格好の男を紹介する。
イケメンの男は眉間にシワを寄せて二人をじーっと見た後、答えた。
「じゃあ、働き者の金時」
ああ、それじゃあ正直者に贈り物はないんだよぉぉぉぉ、とサングラスの男が心の中で叫んでいると、
「ちょっ、土方くぅぅぅんっ!!?」
どうやら自力で泉から這い上がってきたさきほどの男が、イケメンを情けない顔で見ていた。
イケメンの答えは結果的に面白くないらしく泉の精は提案する。
「…一度なら変更してもいいですぜぃ」
「じゃあ公務員の銀八」
イケメンはきっぱりと言い捨てた。
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー!!」
「……それじゃあ世界観が違っておかしなカップルになっちまいやすぜぃ。ちゃんと正解を選んだほうが良いんじゃねーですかぃ?」
「いーからそっち寄越せ」
「いやぁ、嘘つきに欲しいもんを与えるほどファンタジーは都合良くねーや。このままじゃあ、全部没収することになりまさぁ」
「ひ、土方くん! 俺、泳げないから泉の中は無理ぃぃぃ」
「ほら、旦那もこう言ってることですし、正直に答えたほうが……」
「うるせぇぇ!! 間違ったんだから全部持って帰れぇぇぇぇ!!」
イケメンが問答無用でそう叫ぶと、泉の精は"こりゃあダメだ"と思ったのか、泉に落した銀髪を地面に放り投げて寄越した。
「素直じゃねえあんたには、この男がお似合いでさぁ。それじゃ」
「あ!! こら、待て!! いらねーって言ってんだ!!」
イケメンが叫ぶが、泉の精は二人の男を連れてさっさと泉の中に戻って行った。
残されたイケメンはずぶ濡れの銀髪をきっと睨みつけ、
「噂を聞いて泉の中に大きな岩を放り込んで金の岩と銀の岩を貰おうなんて、また考えやがったら今度こそ別れるからな!!」
「……はぁい」
銀髪の男は情けない返事をして、先に歩き出したイケメンの後をとぼとぼと着いていくのだった。
その一部始終を見ていたサングラスの男は、
「真面目にコツコツ働こう」
と、別居している妻にも怒られるかもしれないと考え直し、帰っていくのだった。
めでたし、めでたし。
+++
「銀ちゃん、今日は真面目に仕事してるアルな」
「なんか、嫌な夢見たんだって」
「ふーん」
おわり
実写ドラマ、立木さん出演記念(笑)
ネタメモにあったんですが、3年前なのでネタのきっかけは思い出せません。
……漫画で描きたかった(笑)