原作設定(補完)

□その39
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#385

作成:2018/06/29




万事屋のソファに座り、銀時は全身からダラダラと汗をかいていた。

目の前には真選組の副長。

腕組みをしてむすーっとしかめ面でソファに座っている。

何も言わない銀時に対し、土方は唇を尖らせて言った。

「なんとか言ったらどうだ。だいたいてめーはいつも時間は守らねーし、足はくせーし、金はねーし、足はくせーし」

「……すみません……」

「そんなてめーでも良いなんて、本気で思ってんのは俺だけだぞ。なのに女なんかとチャラチャラしやがって。ちゃんと分かってんのか」

「……はあ……」

「なんだ、その気のない返事は。てめーがそのつもりなら別れたっていいんだぞ。俺はてめーじゃなくてもいいんだからな」

「……そう……」

「……な、なんてな! 俺がそんなこと言ったらお前だって嫌だろ? だからちゃーんと俺だけを見て、俺だけを大事にしろよ!」

「……はあ……」

会話だけを聞いていると、ツンデレな恋人を怒らせた男、のようだ。

が、おおよそ土方が言いそうにない台詞な上に、銀時と土方は恋人同士でもなんでもない。

なのに土方は銀時を恋人のように話した。

相手は男だし土方だし、いくらモテない銀時でもそれに話を合わせる必要はなかった。

反論もせずに素直に返事をしたのは、土方がこうなってしまった理由が自分にあったからだ。

一時間ほど前、珍しくパチンコで大枚を稼いだ銀時は、上機嫌で愛車を走らせる。

今日は神楽と新八と定春に土産も買って、家賃もちょっとは払っちゃおうかなー、なんて考えていた。

さほどスピードは出ていなかったのだが、脇道から飛び出してきた人影に気づくのが少し遅れた。

慌ててハンドルをきったせいでタイヤが滑り、スクーター共々地面に転がった銀時は、丈夫な体が幸いしてすぐに起き上がる。

飛び出してきた人物も転んだのが見えたので急いで駆け寄ろうとして、

「げっ」

低い声を漏らして嫌な顔をした。

見慣れた隊服と見慣れたV字ヘアーのイケメンが倒れていたのだ。

よりにもよって後々までネチネチ言われそうな相手と事故るなんて。

ため息をつきながら土方に近寄り、

「あー……土方くん、だいじょうぶ?」

へらっと機嫌を伺うように話かけた。

だが土方はぐったりとして目を閉じたまま起き上がらない。

「……土方くん? おーい、だいじょうぶですかぁ?」

愛車を犠牲にしたのだからぶつかったはずはない。

驚いて避けた拍子にどこかぶつけたのだろうか。

「…けっ……マヌケだな」

しかし、ぶつかっていないとはいえ、原因は自分にないこともない、こともないかもしれない。

なので放置して行くこともできず、土方の隣に立ち尽くしていると、近くの店の店員が心配そうに声をかけてきた。

「銀さん、大丈夫? 救急車呼ぶ?」

「え、あー、たぶん大丈夫だと思うんだけどねー」

なんて会話をしていたら、土方の目がぱっちりと開く。

ほっとした銀時と視線が合い、隣の女を見てから叫んだ。

「てめー、俺というものがありながら女と浮気か!?」

「へ?」

思いもよらぬことを言われ、銀時はきょとんとしてしまう。

眉間にシワを寄せ瞳を涙で潤ませた土方の顔は、とても冗談を言っているようには見えなかったが、当然事実でもない。

「ちょ、ちょっと、土方くん。何言って……」

「!!! ひ、“土方”って……いつもは“十四郎”って呼んでくれるのに……もう無関係ってことか!? さてはてめー、俺の体だけが目当てだったんだな!?」

「なっ……」

いい歳の男が恋愛ドラマのかわいそうなヒロインみたいなことを言う姿は滑稽だと思うのだが、真剣なその姿は同情心を煽ったらしい。

銀時は周りの人間の冷たい視線に耐えられなくなり、

「こ、こんなところで立ち話もなんだし場所を移そうか!」

そう言って土方の肩を抱くと、スクーターを放置して急いでその場を離れた。

そして現状に至る。

土方がずっと“付き合ってる”的な話ばかりするので、『あれ、そうだっけ?』と思いそうになってしまうのをぐっと堪え、銀時は恐る恐る聞いてみた。

「…あのー……おたく、土方くん、だよね? 間違いなく?」

「…………」

だが土方はむすっとして答えない。

その理由に気付いた銀時は、仕方なく渋々訂正する。

「…と、十四郎は、間違いなく十四郎?」

「当たり前だろ」

「えっと……お仕事はなんだったかなぁ」

「真選組副長だ。なんだよ、今さら」

やっぱり間違いなくあの土方らしい。

そっくりな別人というオチも怖いが、間違いなく本人というのも怖かった。

こうなってしまった理由がさっきの事故のせいだったら、

『やっぱり頭とか打っちゃった? これって俺のせい? 神楽と新八に見つかるのもマズイけど、このまま真選組に帰すのもヤバくね?』

ということになる。

どうしたらいいのかとオタオタしていたら、デスクの上の電話が鳴り響いた。

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