原作設定(補完)

□その38
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それで銀時は確信した。

例の薬を飲んで土方とキスできないかなー、とは考えたが、土方が飲まされているとは想定できなかった。

飲まされたこと自体知らない可能性もあったが、土方の様子がおかしいのはきっと知っているから。

だが額にハートマークが浮かぶという情報のほうは知らないらしい。

その情報を得る前に、誰かに……おそらく沖田に薬を飲まされキスしないと死ぬと知り屯所を飛び出したのだろう。

だから、ハートマークを見られて"銀時が好きだ"と白状してるようなものなのに、気付いてない。

前髪に触れたままぽかんと自分を見ている銀時に、土方がようやく、

「なんだよ、どけっ」

眉間にシワを寄せて銀時の手を払った。

この素っ気無い態度も、今までの喧嘩越しも、汗をかくほど落ち着かない理由も、銀時は理解した。

似たもの同士だとは思っていたけれど、こんなところまで似てしまうなんて笑うしかない。

なので土方から言えないなら自分から言ってやることにした。

「土方さ、俺に何か頼みたいことあるんじゃね?」

「……な、なんで……て、てめーなんかにっ」

予想通りの返しだ。

「銀さん、今日は機嫌良いからね。何でも聞いてあげちゃうよ?」

「…………」

銀時の申し出に一瞬『まじで?』と気が緩んだ顔をしたが、頼みごとが頼みごとだけに何度も言おうとしたり躊躇ったりを繰り返し、結局、

「……だ……だからっ、てめーに頼みごとなんかねーよ!」

と言って立ち上がった。

この場の雰囲気がもう限界だったらしく、多めの金を置いて帰ろうとする。

「釣りはいらねぇ……じゃあなっ」

きっと内心では、素直になれなかった自分を責めて後悔しているだろう。

分かってみれば可愛いものだし、ものすごく嬉しいし、このまま死んでしまうと不安がらせるのも可哀想だ。

銀時は土方を追いかけて、しょんぼりした背中をしている土方の手を掴むと、人目につかないところに引っ張って行った。

「な、なんだ……おい、万事屋っ」

驚いている土方の壁に押し付けて、銀時は真剣な表情で言ってやる。

土方から言って貰った方がものすごく幸せだろうけど、強情を張って逃げられて死なれたらたまらない。

「俺さ、おめーのことずっと前から好きなんだよね」

「…………な……」

「もう我慢できないからちゅーしていい?」

訊ねはしたものの返事を待たずに銀時はそのまま唇を重ねた。

そのつもりだったはずなのに急展開すぎて硬直していた土方も、銀時に好きだと言われたこと、キスされていること、これで死なずにすんだこと、いろんなことを認識して安心したのか抵抗もせず目を閉じる。

土方が大人しくしていてくれてるので、銀時は心行くまで堪能することができた。

満足して身体を離すと、土方はモジモジしていてなんだか可愛いし、さりげなく前髪をめくってみたら額のハートマークは消えてるし、銀時もようやくホッと息をつく。

銀時のほうはもう両想いを確認しているのだが、土方の方は半信半疑のようで、

「……さ、さっきの……本当か?」

恐る恐る聞かれたので、銀時は笑って言ってあげた。

「マジでっす。おめーは俺のこと嫌いかもしれねーけど、ちょっと考えてくんないかなぁ?」

「…………わ、わかった」

「しくよろ。じゃーね」

わざと答えを保留にして、銀時は先にその場から離れる。

素直じゃない土方には下手に出てあげたほうが嬉しいだろうし、後で気付いたときに激烈恥ずかしがるだろうと想像すると楽しいからだ。

『今日は良い日だったなぁ』

そう思いながら銀時は軽い足取りで家に帰るのだった。


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