原作設定(補完)
□その38
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一方、万事屋では。
「飲んでしまった人は24時間以内に好きな人とキスをしてください。でないと、死にます」
昼食を終えてお茶を飲んでいたところに、そんなニュースが流れてきた。
「……うわあ……とんでもない薬が出回ってるみたいだねえ……」
「不潔アル」
新八と神楽が嫌そうな顔をしているのに、銀時はぼんやりと妄想する。
『いいなぁ……その薬を口実にしたら告白できんじゃん。"死ぬ"なんて言われたら、大概のヤツはキスぐらいさせてくれそうじゃん。俺もその薬飲んで土方くんにお願いしてみようかなぁ……でもなぁ、土方くんじゃ"じゃあ死ねよ"とか言われそうだなぁ、鬼の副長だもんなぁ、ダメかなぁ、やっぱり。そんなこと言われた上に死んだら悲しすぎるよ、死に切れないよ』
ずっと土方に片想いしているくせに、素直になれずに喧嘩ばかりしてきた銀時。
だが最近、そんな関係がちょっとだけ変わってきたような気がしていた。
銀時がよく行く団子屋で、小声で喧嘩しながら二人でお茶することができるようになった。
たとえ、団子屋に来るのはマヨ団子があるからで、小声なのはうるさいと店を追い出されるからだとしても。
百万分の一ぐらいの確率しかない土方の優しい同情心に、自分の命をかけるかどうか悩んでいたら、ふと思いついたが、
『……あれ? 別にホントに飲まなくてもよくね? 飲んだフリしてちゅーだけしてもらえば……』
世の中そんなに甘くないようだ。
「続報です。薬を飲んでもいないのに飲んだと嘘をついてキスを迫る人が増えています。犯罪です。なので番組で調査した情報をお伝えします。薬を飲んだ人に好かれている方は、相手のおでこを見てください。好かれている人にしか見えないというハートマークが浮かんでいるはずです。他の人に見えないなら、薬を飲んでいる証拠です。必ず確認してください。ついでに言うと、キスをするとそれは消えるそうです」
同じコトを考える奴らがたくさんいたようだ。
「ちっ」
銀時が舌打ちすると、新八と神楽が軽蔑したような目で見てくる。
「銀さん……やめてくださいよ、犯罪ですよ」
「ウソついてキスさせるなんてサイテーネ」
「し、しませんよっ、そんなことっ」
ドモっているので説得力がなく、子供たちの冷たい視線に耐え切れず、銀時は立ち上がり、
「そ、それじゃあ、ちょっと仕事でも探してくるかなぁ」
しらじらしいことを言いながら部屋を出た。
背中に追い討ちをかけるように、
「捕まっても助けませんからねー」
「うちの敷居もまたがせないアル」
まったく社長で家主を信用していない二人だった。
腹を立てようにも、考えてしまっている以上誤解ではないので、
「ちくしょー。この寂しさは団子で癒やすしかねーだろーがぁぁぁ」
せめて甘味でも取って癒やされようと、銀時は団子屋に向かうことにした。
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