原作設定(補完)

□その38
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#377

作成:2018/06/06




「早く見つかって良かったですね」

「ちょろいもんアル」

依頼をこなし良い報酬を受け取ってホクホク顔の新八と神楽に対し、銀時は浮かない表情だった。

そんな銀時に、

「今日は銀さんも飲みに行っていいですよ」

なんて言ってくれたのだが、それでも気分は晴れない。

『飲みに行ったってなぁ、アイツが来ないんじゃ意味ねーし』

ささやかな仕事の依頼で喜ぶ万事屋と違い、超多忙な恋人のことを思い出して内心で不貞腐れる。

真選組、鬼の副長は他人にも厳しいが、自分にだって厳しいのだ。

仕方ないのだけれど、分かっていて付き合っているのだけれど、本人には言わないのだけれど。

ここ最近は声を聞くこともできなくて、すっかり土方ロス生活を送っていた。

それを知っているからこそ、新八たちも銀時にちょっぴり優しかったのだが、それをひっくり返すようなことが起きた。

万事屋へ戻る途中の道で、三人の前に若い女の子が立ちふさがる。

見覚えのない女の子にきょとんとしていると、じっと銀時を見つめて言った。

「いつも優しくしてくれてありがとう。好きだよ」

そして恥ずかしそうにそのまま立ち去ってしまう。

呆然としていた三人だったが、言葉の意味と相手を反芻した子供たちのほうが先に動いた。

「……銀さん、誰ですかアレ」

「不潔アル」

「ちょっ……まっ……知らない知らない」

慌てて言い訳するが、二人はすっかり軽蔑の眼差し。

「銀さんを見てはっきりきっぱり言ったじゃないですか」

「不潔アル」

「お前ら、俺がモテないの知ってるでしょぉぉぉ!? ちょっ、神楽、その顔止めなさいっ」

「土方さんがちょっと忙しいからってもう浮気ですか。軽蔑します」

「不潔アル。私に近寄らないで」

「だ〜か〜らぁぁぁ、知らないって言ってんですよコノヤロォォォ!」

銀時があまりにも真剣にそう叫ぶし、"モテない"というのも事実ではあるので、納得しかけた二人だったのだが。

「本当は毎日会いたいんだ」

「寂しいけど我慢する」

「好き、って素直に言えなくてごめん」

移動する先で次から次へと現れて銀時に熱烈な気持ちを語る、全部違う女性たちに、もう完全に信用をなくした。

「銀さん……」

「腐ってるアル」

「違うって! マジで! 無実ですぅぅぅぅぅ!!」

本当にモテてるのだったら嬉しいのだが、一切合財心当たりがなく、何も良い思いをしてないのに軽蔑だけされる。

意味が分からないしキレそうになったとき、更に続いて現れる女性たちに違和感を覚えた。

「ドタキャンしたり急に帰ったりしてごめん」

「本当は電話で声ぐらいでも聞きたいんだ」

「あの女たちとあんまり仲良くしないでくれ……心配だから」

見ず知らずの女性たちが口にするにしては、銀時の胸にチクチク刺さる言葉。

新八たちも、いくら銀時でも違う女性たちと浮気なんかできるかな、と思い始めたとき、トドメ一言。

「マヨもタバコも控えるから、嫌わないでくれ」

女性が立ち去ったあと、新八がぽつりとつぶやく。

「……土方さん?」

「だよね!? なんか土方くんっぽいよね!?」

「トッシー、あんなこと言うアルか?」

「言わないよ。言わないけど……なんか……」

土方が素直に口にしなくても、いろんなことで銀時にすまないと思っていることは銀時も感じていた。

だからこそ、会いたいのも我慢してきてるのだ。

もし女性たちが口にしたのが土方のホンネ的なものだとしたら……。

「でも、なんで土方さんのが?」

「……死んだんじゃないアルか」

「!!!!? な、なな、なんてこと言ってんですか!?」

「あり得ますよ。心残りだったホンネを伝えに女性たちに乗り移ったんじゃ……」

「やめろぉぉぉぉ!! ないから! 土方くんが死ぬわけないから!!」

いろんな意味で怯えて叫ぶ銀時に、

「とにかく万事屋に戻って、土方さんに電話してみたらどうですか」

と新八が提案すると同時に、銀時は万事屋に向かって走り出した。

心臓がドキドキバクバク脈打って爆発しそうだったが、それが杞憂だったことは万事屋に到着するなり分かった。

玄関の前に土方と山崎が立っていて、銀時は不安と安堵が入り混じって抱き付いてしまう。

「うわぁぁぁぁん、土方くん! 無事だったんだね!!」

「な!? ちょ、万事屋!?」

「良かった! 良かったよぉぉぉぉ!!」

上司の情夫との抱擁に山崎は思わず目をそらすが、続いてやってきた新八がほっとした顔をしているので、伺ってみる。

「えっと、もしかして何かあった?」

「ははは。はい、ちょっと」

「あ〜〜〜、すんません。ちょっといろいろありまして……」

山崎が申し訳なさそうに言う中、銀時は未だに土方にしがみ付いたままで、土方もそれを引き剥がせずにいた。

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