原作設定(補完)
□その38
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#375
作成:2018/06/01
土方十四郎はすこぶる機嫌が悪かった。
屯所に居ると隊士たちに当たってしまいそうだし、隊士たちもそれが嫌で露骨に避けているし、夕食前に外出することにした。
夕食を兼ねてちょっと酒でも飲んで、嫌なことを忘れたらちょっとは気分が晴れるかもしれない。
そうなると、初めて行く店で失敗するよりも、行き慣れた店でいつものメシと酒を嗜むほうが安全だろうと向かった定食屋。
「いらっしゃい。あら、土方さん、久しぶり」
「ああ。おばちゃん、いつもの……」
元気なおばちゃんの声を聞いて和みそうになった土方だったが、店の奥に見えた姿に苛立ちがMAXでぶり返してしまった。
このままUターンして店を出ても良かったのに、それを阻止する声がかけられる。
「あんれぇぇぇ、副長さんじゃん、いらっしゃぁぁぁい」
土方とは正反対に、すこぶる上機嫌の銀時が真っ赤な顔でそう言った。
こんなに親しげに声をかけてくるなんて、どうやら激しく酔っているようだ。
以前に比べて、顔を合わせたら即口喧嘩、ということはなくなったものの、親しいとは言いがたい関係なのに、
「あれぇ、一人? それじゃあ、銀さんと飲みませんかぁ?」
銀時はヘラヘラと笑って誘ってきた。
酔っ払いのたわ言だし、今一番見たくない顔でもあったのに。
売られた喧嘩を買うような気持ちで、土方は中に入って扉を閉めると銀時の隣にどかりと腰を下ろす。
夕飯を食うつもりだったのだが、
「おばちゃん、酒。それとマヨ的なつまみ」
素面では太刀打ちできそうもない、とすぐに酒を注文した。
その勢いに釣られたのか銀時のほうも楽しそうに言う。
「おばちゃーん、俺にも酒追加ぁ。それと小豆的なもん、くださぁい」
改めて思うが、銀時がこんなに上機嫌に酔っ払っている姿は初めて見る。
付き合いが長いせいで得た情報だが、さほど裕福でない……どちらかと言えば貧乏である万事屋なので、たまに居酒屋で遭遇すると安酒をチビチビ飲んで雰囲気で酔っ払っている、という姿しか見たことがない。
なので、不機嫌ながらも土方は聞いてみた。
「……今日は羽振りがいいじゃねーか」
「へへへ。今日は銀さんパチンコで大勝しちゃったからね。ツケを払ってもまだまだ飲めるんですぅぅぅ」
やっぱりそんなところか、と仕事人間の土方は呆れてしまうが、そうそう上手くはいってないようだ。
「あら銀さん、ツケを払った残りで注文できたのはさっきのおはぎまでだよ。今の注文からはまたツケになるからね」
「まじでか! ええぇぇぇ……ぱっつぁんに、ツケを増やしたらクビだって言われてんのにぃぃぃ」
社員(未成年)にクビにされる社長ってどんなダメ人間だ、と思えるようなことを言って、銀時はしょんぼりと項垂れる。
が、すぐに顔を上げ土方を見て言った。
「じゃあ、土方くん、驕ってください」
「……な、なにが"じゃあ"だ」
「いいじゃん、いいじゃん。たまには銀さんに驕ってあげてもよくね? 銀さん、こう言っちゃなんだけど、いろいろお手伝いしたと思うんだけどなぁ」
それを言われると土方も反論しにくい。
銀時が勝手に首を突っ込んでくることもあるし、なんやかんやで協力させてしまったようなこともある。
そのせいで、銀時に"ある感情"を抱くようになってしまったのも、余計に腹立たしいのだ。
銀時が隣に座って上機嫌で酔っ払っている。
そんな稀なシチュエーションに、付け入りたくなってしまった。
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