原作設定(補完)

□その37
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#366

作成:2018/05/01




「多串くん」

呼ばれて目を開けると、目の前には銀時が居た。

一瞬、今、自分がどこに居るのか分からなくなった土方だったが、背景に見えるのは間違いなく屯所の自分の部屋だ。

布団で寝ていたということは、就寝時間を過ぎている真夜中だということで、そんな時間に銀時が居るのがおかしいわけで。

「……何してる」

「誕生日おめでとう、多串くん」

やっぱりそれか、と土方は思った。

5月5日なんて忘れにくい誕生日の上に、いつも仕事で休めないことを近藤に謝られるし、いつも仕事で休めないことを銀時にチクチク責められるし。

が、今年は何故か、休めないと告げても銀時が文句を言わなかったのでおかしいと思っていたのだ。

日付が変わった途端に、屯所に忍び込んでくるとは。

「不法侵入だぞ、てめー」

「何言ってんの?」

「あ? 何って屯所に…………あれ?」

銀時がきょとんとしているので改めて背景を見たら、そこは土方の憧れ、理想の"マヨリーン工場"になっていた。

マヨリーンが二人を囲んで"ハッピーバースデー"を合唱してくれている。

『うわぁぁぁぁ』

ぱぁっと嬉しそうな顔を浮かべる土方を、銀時がやっぱり嬉しそうに見つめていた。

慌てて平常心を装い、

「な、なんか、夢みてーだな」

なんて言ってみたら、銀時はにいっと笑う。

「夢だよ」

「……あ?」

「だーかーら、夢」

だよな、と土方はあっさり納得した。

屯所で寝てたはずだし、マヨリーン工場が急に現われるわけもないし、銀時が誕生日を祝いに来るはずもない。

だったら、それはそれで夢を満喫するという手もある。

なので土方は銀時をちらりと見たあと、ぎゅっと抱き付いてやった。

「多串くん?」

「……誕生日にちゃんと祝われてやれなくて……ごめん」

「だから、こうして祝いに来たんじゃん」

銀時がそう言ってぎゅーっと抱き返してくれる。

夢だけど、それはとてもとても幸せな気分だ。

銀時の暖かな腕に抱き締められて、目を閉じたらいつのまにか眠ってしまった土方だった。



「……はっ!!」

目覚ましが鳴る前に目を覚ました土方は、飛び起きて辺りを見回す。

そこはちゃんと屯所の自分の部屋で、銀時もマヨリーンも居ない。

やっぱり夢か、と思いながら、良い夢で嬉しいような、夢でがっかりだったような。

夢で祝ってくれた礼に、時間ができたら銀時に会いに行ってやろう、なんて考えていると、部屋の襖がばーんと勢い良く開いた。

そこには沖田が立っていて、"早朝バズーカ"かと一瞬で身構えた土方だったが、よく見ると沖田が持っているのはカメラで、

「……なんでぃ、旦那はもう帰ったんですかぃ」

土方を見て心底残念そうにそう言った。

「な、何を言って……」

「とぼける気ですかぃ。昨晩旦那が忍び込んで来たのは山崎が確認してるんでさぁ。寝乱れてるところを激写してやろーと思ったのに……」

「沖田隊長ぉぉぉぉ!内緒だって言ったじゃないですかぁぁぁ!!」

山崎が大慌てで乱入してくるが、"内緒"なんて約束を沖田が守るはずもなくベラベラと話してくれた。

つまらなそうに帰って行く沖田と、逃げるように部屋を出て襖を閉めて行く山崎。

一気に騒がしくなって、一気に静かになった部屋で土方は、昨夜の夢は半分夢じゃなかったんだ、と察する。

銀時はちゃんと祝いに来てくれた。

起床時間までまだ少しあるため土方はもう一度布団に寝転んで、さっきの幸福感を思い出しながら、あとで電話してやろうと思うのだった。


 おわり



夢じゃなかったオチ。
ありがちだけど、土方さんが幸せだったらオッケーだよね(笑)

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