原作設定(補完)
□その37
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#365
作成:2018/04/26
ある日の午後、真選組屯所に前例にない事件の情報が舞い込んできた。
正確には"現実"として前例にないだけで、事件の内容を聞けば誰もが犯人像を想像できる、そんな事件だった。
「早朝、かぶき町の町外れで倒れている女性が発見され、現在意識不明で入院中です。医者の話だと、体内から大量の血が抜かれていて、首筋には何かに差されたような跡があったと……」
「あ? 犯人は吸血鬼だとでも言う気か?」
「いえ、医者がそう報告してきた、って話でして……」
休み返上の連日勤務中の土方が不機嫌そうに言うと、山崎は慌てて言い訳をする。
それからちらりと伺うように土方を見たのを、土方が見逃すはずもない。
「なんだ」
「えっと……そのう……」
「早く言え」
「……不審な人物を見たっていう目撃情報がありまして……」
「不審な人物? だったら、ソイツをさっさとしょっぴいて来いよ」
「いやあ……ちょっと難しいかなぁ、と……」
あからさまに"嫌だなぁ"という顔をする山崎に、土方は普段なら怒るところだったが嫌な予感がした。
「……どんなヤツだ?」
「それが……黒いタキシードっぽい洋服に黒いマントをつけたベタな格好だったそうですが……銀髪でもふもふっとした髪型だった、と」
そう報告すると、予想通りに土方の動きが止まる。
土方が思い出しているであろう人物と、数ヶ月前から深い関係であるのを山崎は知っていた。
近藤たちにはまだ内緒にしておきたい、という理由から、いざという時のフォローのために土方自ら申告してくれたからだ。
ただ、予想では怒るか苦笑するかと思っていたのだが、土方は眉間にシワを寄せて難しい顔をしている。
「……副長?」
「……分かった。他にも何か情報がねーか引き続き調べてくれ」
「は、はい」
話を打ち切られたので、山崎は小首を傾げながら副長室を出て行った。
山崎がおかしく思っていることに気付いてはいたが、土方はあえて何も言わなかった。
銀時と付き合う前だったなら、「いくら得たいの知れない野郎でも、それはねーだろ」と否定できたはずなのに、今の土方には思い当たるフシがあったからだ。
泊まりに行って何か着替えがないかと探したとき、そんな服を見たような気がする。
銀時のことだから、夏祭りのお化け屋敷かなにかの仮装の衣装かと思っていたのだが、実用用だったのだろうか。
それに、久しぶりに飲んだとき「喉が渇いた」と言って、トマトジュース系の飲み物をやたら飲んでいたことも思い出す。
店がトマトジュースの仕入れでミスったとかで、激安で提供していたせいかと思っていたのだが、代用品だったのだろうか。
モヤモヤと考え続ける土方だったが、電話でズバリと確認すればいいだけのことが出来ずにいた。
銀時じゃないと信じたい気持ちと、銀時を疑っていると知られたくない気持ち。
『……犯人をしょっ引きゃいいだけの話だ』
土方は取り出した携帯を懐に戻し、夜の見回りを強化して同行することにした。
長丁場も覚悟したのだが、二日後、あっさりと現場に遭遇する。
別の場所を見回っている隊士から、不審者がいるとの知らせを受けて駆けつけた土方は、人通りの少ない道で女性の背後に近付いていた男に声をかけた。
「そこまでだ。無駄な抵抗はやめて……ゆっくりこっちを向け」
街灯もないため薄暗い路地から、目撃情報どおりの服装の男が観念したのかゆっくりと土方の前に出て来る。
銀髪天然パーマで死んだ魚のような目をしたその顔は、見間違えようもなく銀時だった。
土方の胸はズキリと痛むのと同時に、怒りでいっぱいになる。
ズカズカと近付いて胸倉をつかんでそのまま後ろの壁に押し付けた。
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