原作設定(補完)

□その36
4ページ/31ページ



真選組屯所に到着すると、土方が猫を抱えて戻ってきたことに隊士たちがぎょっとしているのが見えた。

なぜそんなに驚いていたのかは、駄菓子を食いながら近付いてきた沖田の言葉で分かった。

「土方さん、今日は猫を取り調べるんですかぃ」

「……なんでだよ」

「だって土方さんが仕事でもねーのに猫を連れ帰るはずねーでしょう。どこぞの攘夷志士の飼い猫とかじゃねーんで?」

"鬼の副長が善意で猫を連れ帰るはずがない"と決め付ける沖田だが、"猫を取り調べる"なんてふざけたことを本気で言ってるわけじゃないだろう。

つまりはからかっているいるわけで、土方は眉間にシワを寄せた。

「んなわけねーだろ……ちょっと飯を食わせるだけだ」

「へぇぇぇぇぇ、土方さんが猫にご飯をぉ!? ……あ……」

大袈裟に驚いてみせた沖田だったが、抱かれている銀時を見て何かに気付いたようだ。

「……コイツ、旦那に似てますね」

みんなにそう言われるが"そんなに似るものか?猫なのに?"と、銀時はあとで鏡を確認したくなった。

それは土方も思っていたことだったが、沖田が気付いてしまったのでシラをきる。

「……そうか?」

「似てるじゃねーですかぃ、死んだ魚のような目が…………そういや、近藤さんがこのあいだ……」

何かを思い出して言い掛けた沖田だったが、突然話を変えて、

「土方さん、コイツに飯やるんでしょう? 食堂のおばちゃんが昼の片付けしてるころだし、行って何か貰ってきたほうがいいんじゃねーですかぃ」

「あ!? そうか」

「ソイツ、預かりまさぁ。そんなもん連れて歩いたら隊士たちが戸惑いますよ」

「……じゃ、じゃあ……頼む……」

やけに親切な沖田に怪訝そうな目を向けながらも、土方は銀時を沖田に預けて食堂へ向かった。

残された銀時にとっても"親切な沖田"というはなにやら不気味なもので、内心ビクビクしていたところへトドメを刺される。

「で? 旦那、今回はなんで猫になったんで?」

そうはっきりと銀時の目を見て言われた。

"ちゃんと"猫に話かけているので、この猫が銀時だと確信を持って言っているようだ。

「……にゃ……にゃあ……」

「とぼけなくても良いですぜぃ。土方さんは全く信じてないし忘れてるようですけど、近藤さんからあの時の話は聞いてるんで」

前回猫になったとき、近藤と一緒に行動していたのだから聞いていて当然だろう。

土方にも、

「近藤さんが、猫になったてめーと一緒だったって言ってたんだけど」

と訊ねられたことがあったが、

「あ? なんだソレ。人間が猫に? んなバカな」

と笑い話にして誤魔化したのだ。

土方は信じがたいと思っていたのか、「だよな」と納得して安心したようだった。

人間が猫になるなんて突拍子もない話、疑って当然なのだが沖田のように、面白いことは信じる性質の者もいる。

銀時が動揺して困った顔をしているのが満足だったのか、土方が戻って来るのが見えたからか、

「ま、土方さんには内緒にしといてあげまさぁ。戻ったあとで何か奢ってくだせぇ」

そう言って何もせずに解放してくれた。

猫を土方に渡して足取り軽く立ち去った沖田に、土方は首をかしげ、銀時はどっと疲れてしまうのだった。



.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ