原作設定(補完)
□その36
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みんなが心配していることも知らずに不貞腐れながら歩いていた銀時は、真選組に到着する前に目的の人物を見つけて足を止める。
土方はどこかに電話していたのか、通話を終えて携帯を閉じながら小さく溜め息をついた。
隊服姿なので仕事中だし、デートをドタキャンするぐらいだから忙しいのだろう。
こんなときに猫が近付いてきても迷惑な顔しかしないかもしれない、と思い銀時は立ち止まったままだったが、こちらに歩いてきた土方に気付かれてしまった。
しかも土方はなぜかじーっと自分のほうを見ている。
ただ猫を見ているだけだと分かっていても、あまりにも食い入るように見ているので、まさか"銀時"の姿に戻っているのかとキョロキョロしてしまった。
だが土方は、その場にしゃがむと右手の人差し指をひらひらさせて、「ちっちっ」と舌を鳴らして声をかけてきた。
猫を呼ぶ仕草をしたということは、やっぱり猫に見えているんだ。
銀時はちょっとがっかりしながらも、せっかく土方が機嫌良く呼んでくれたので近付いていった。
内心で、土方がマヨネーズを出さなかったことを嬉しく思う。
前回猫になったときに"猫にマヨネーズを見せびらかす土方"にイラついたので、あのあと飲んだときに「マヨネーズは猫の身体に悪い」と教えてやったのを覚えていてくれたようだ。
銀時が近付いていくと土方はちょっと嬉しそうにして、指先の匂いを嗅いでやったら恐る恐る手を伸ばしてきた。
犬猫に嫌われているとぼやいていたことがあったが、そんなにビクビクしているから犬猫もビクビクしてしまうのだろう。
銀時が大人しく抱っこされてやると、
「……お前……前に見たことあるな……」
土方がそう呟いたので、猫なんてみんな同じに見えるんじゃないかと思ったら、その理由は神楽と同じだった。
じっと銀時の顔を見つめて呟く。
「……アイツに似てる……」
"アイツ"が誰のことを指しているのか、自惚れていいものかとドキドキしていたら、土方は銀時の体をもふもふっと撫で回してから小さく笑った。
「……ふっ……毛並みまで似てやがる……」
可愛い顔でとんでもないことを言われ、銀時は顔がかーっと熱くなる。
『な、なにソレぇぇぇぇ!? 俺の髪のこと!? もふられたことなんてないんですけど! もしかして俺が寝てるときにもふってみたりしてるってこと!? なに可愛いことしてくれちゃってるんですかコノヤロォォォォォ!!』
猫になっているおかげで、顔が赤くなっていることもにやけてしまっていることも、見られずに済んだ。
嬉しそうに何度も猫の体を撫でている土方は、銀時にもそうしたいと思ってくれているのだろうか。
会ってもいつも素っ気無いぐらいで、それが"土方らしい"んだと思っていた。
それから土方は、さらに予想外のことを猫相手に話しかけてくる。
「……お前に似たヤツ、見かけなかったか? どっかで寝こけてるかもしれねーんだ」
心配そうにそう呟いてから、
「……猫に聞いてどーすんだ……」
ついつい問いかけてしまった自分に、土方は呆れたような寂しい顔をする。
連絡もなくデートをドタキャンし、反省も心配もしていないだろうと思っていた。
だけど居場所を問いかけたということは、家に帰っていないことを知っている、ってこと。
家に帰っていないことを知っているということは、朝になって電話をしてくれた、ってこと。
電話をしてくれたということは、デートをドタキャンしたのを悪いと思っている、ってこと。
『……なんだ……じゃあ自棄酒なんて飲まなきゃ良かった……そしたらこんな姿にならずに済んだのに……』
銀時が猛烈に反省していると、土方は銀時の体を落ちないように抱き直し、
「腹減ってるか? 屯所で何か食わせてやる」
そう言って歩き出した。
土方に対して文句を並べていたせいもあって、銀時は優しくされることに罪悪感を覚えながら大人しく連行されていく。
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