原作設定(補完)
□その36
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だからといって、警察官がこの挙動不審者を放っておくのもどうかと思えた土方は、
「……飯、食わせてやろうか」
「え!?」
全員を驚かせるような、らしくないことを言ってしまった。
別に二人が可哀想だとか気の毒だとか心配だとか思ったわけでもないのに、飯ぐらいの面倒はみてやっても良いような気がしたのだ。
土方のそんな曖昧な気持ちが伝わったのか、
「いらないアル!お前らの情けは受けないネ!」
神楽にきっぱりと断られてしまった。
「無理すんなよ。せっかく土方さんが奢ってくれるってんだから一緒に行ってやらぁ」
着いてきて一緒に奢られる気満々の沖田がそう言ったのだが、神楽は拒否るようにそっぽを向く。
「必要ないアル。銀ちゃんが買い物してきて美味しいご飯をつくってくれるネ。お前らとマズイ飯を食うのなんてゴメンアル」
どんなにおなかが空いていても、目の前にご飯を並べてくれると言われても、銀時と一緒に食べるささやかなご飯が一番のご馳走なのだ。
神楽がそう言うので、新八も嬉しそうに笑って、
「というわけなので、すみません、大丈夫です」
土方の親切を謹んでお断りするのだった。
そこまで言われたなら土方も引かないわけにはいかず、舌打ちする沖田を連れてその場を離れた。
土方から見れば、銀時はいい加減で適当でけっして良い社長ではないはずなのに、二人はこんなふうに信じて慕っている。
そう思ったら、ますます銀時の金の使い道が気になってしまった。
「………」
その日の夜。
久し振りにちゃんとした食事を食べて風呂に入り、すっきりさっぱりした銀時は満足気に息を吐いてソファにもたれかかる。
新八と神楽がやけに上機嫌だったので、銀時もちょっと嬉しかった。
かまっ娘クラブで仕事をしていると何かが削り取られるような気がしてできればやりたくないのだが、給料が良いので結果的には満足だ。
いろいろ満たされたら次は……。
そんな思いでチラリと電話を見るが、二日前に会ったばかりだし、そう都合良く土方から電話はかかってこないだろう。
今日は諦めて寝てしまおうと思ったとき、玄関のチャイムが鳴った。
夜中の来客だからと居留守を使えるほど生活に余裕はなく、銀時はびゅんと玄関まで走って行き、笑顔で扉を開ける。
「はいはい、万事屋銀ちゃ……」
が、そこに立っていた"まさか"の人物に、一旦目を閉じて再度開く……を二回繰り返してから、恐る恐る名前を呼んだ。
「……ひ、土方くん?」
私服姿の土方は俯き加減で、夜の街かぶき町からの明かりのせいで顔がよく見えない。
土方に間違いはないけれど様子がおかしいなと、もう一度声をかけようとしたときようやく土方が口を開く。
「……チャイナは?」
「神楽? あいつなら、今日の晩飯に作ったコロッケが美味くできたからお妙にやるんだって、新八と一緒に行ったけど……」
思いがけず神楽のことなど聞かれてしまい、ついついちゃんと説明してしまった。
すると土方はようやく顔を上げて銀時を見る。
「……だったら上がっていいか?」
その意味有り気な視線に、銀時はドキリとさせられる。
『え?も、もしかしてヤリに来たんですかコレ』
先日したばかりなのに、いつもみたいに電話で呼び出してくれればいいのに、それすら待ちきれずにここまで来てくれたのだろうか。
銀時がドキドキして動けずにいると、土方は玄関から上がってきて銀時に腕を伸ばしてきた。
イメージとは違う土方の行動に興奮MAXの銀時だったが、現実はそんなに甘く色っぽいものではなかった。
土方の手は銀時の着物の胸元を掴んで、ぐいっと自分のほうへ引き寄せる。
暗くてぼんやりしていた土方は近くに寄ってみると、どうやら怒っているようだった。
「てめー、俺がやった金を何に使ってんだ」
「……は? 金?」
きょとんとする銀時に、土方は面白くなさそうな顔で今日あったことを話す。
「今日、てめーんとこのガキ共に会った。腹空かしてファミレスの窓に貼り付いてたぞ。俺のやった金があるのになんで飯を食わせてやらねーんだ」
「……それは……」
「しかも、飯を食わせてやるって言ったのに、てめーと食うから必要ねーって……そこまで慕われてんのにてめーってやつは……」
情けなくて腹立たしくてこんなところまで来てしまった。
土方の顔がそう言っていて、銀時は『なるほど』と突然の来訪に納得する。
ただ"なぜそこまでしたのか"は気になった。
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