原作設定(補完)

□その36
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そんなことがあって、あの日から三ヶ月。

ああは言ったものの、土方からのお誘いはないだろうと踏んでいた銀時だったのに、思いがけず電話を貰って驚かされた。

銀時の優しさに気付いたとか、テクニックに夢中になったとかではなく、単に"便利で簡単だった"からだろう。

銀時が言ったように気分がモヤモヤしはじめたら屯所の近くのホテルに呼び出し、銀時に全てお任せですっきりし、金を置いて帰っていく。

『そりゃあ、まあ、吉原とかまで行っておねーちゃんに自分からいろいろするよりは、簡単だろうけどさぁ』

土方の帰ったベッドに一人で寝転がりながら、銀時はちょっとだけ切ない溜め息をついた。

そう仕向けたのは自分だし、土方にはそのほうが都合が良いのだろう。

余計なことを考えさせてストレスを増やしても仕方ないので、銀時は土方の希望するままに呼び出しに応じてきた。

たが一人残されたあと、置いていった金を見たあと、虚しくなる理由を噛み締める。





「……土方さん、最近なんか調子良さそうですね」

市中見回り中に逃げ出した沖田を先回りして捕獲したら、忌々しそうにそう言われた。

「てめーの考えることなんてお見通しなんだよ」

「そうじゃなくて……前はもっとイライラしてたりぼんやりしてたじゃねーですかぃ」

言われて土方はドキリとする。

そのせいであんな凄惨な事件を起したことは幸い組にバレることはなく、変調は誰にも気付かれていないかと思ったがそうでもないらしい。

「なんか良いストレス解消方でも見つけたんで?」

「……べ、別に……何も特別なことはねーよ」

「……ふーん……」

ニマニマと意味有り気な笑みを浮かべる沖田に、なんだか見透かされているようで落ち着かない。

沖田だったら、本当に何か知っているのなら証拠を揃えてそれを材料に脅迫してくる、ぐらいはするので確信があるわけではないのだろう。

「……そんなことはいいからとっとと見回りに戻るぞ」

「へーい」

誤魔化して仕事に戻ったのに、さほど歩かないうちにまた足止めされてしまう。

「不審者はっけーん」

そう言って沖田が見ている先には、ファミレスの窓ガラスにべったり貼り付いている少女の背中と、その隣でぐったりと座り込んでいる少年。

行動は不審でも見覚えのありすぎる姿なのでスルーしたかったのだが、沖田が嬉々としてからかいに向かったので付いていくしかなかった。

「てめーら何してるんでぃ。店内の客が怯えてんだろーが」

「うるさいアル。チンピラ警察はどっか行くヨロシ」

振り向きもせず神楽は毒を吐いたが、同時にぐるるるると大きく腹を鳴らす。

見えないがものすごい形相で窓の向こうの料理を見ているのだろう、確かに席の客が怯えているのが見えた。

どうやら空腹でそんな行動に出ているらしく、土方は『あ?』と思いながら同じく空腹で動けなくなっているらしい新八に声をかける。

「……腹が減ってるのか?」

「ははは、すみません。しばらく依頼がなくてここ数日まともに食べてなくて」

タイミングの悪いことにお妙の給料日前だったし、家賃を滞納しているのでお登勢にも近寄れず、こうなることがたまにあるのだ。

だが土方にはそれがおかしいと思える理由があった。

二日前に銀時と夜に会って、いつものように金を渡したばかりなのに。

金の使い道を詮索したことはないが、子供らに飯も食わせずに何かに使ってしまったのかと思うと、土方の眉間にシワが寄る。

不機嫌そうな顔の土方とは裏腹に、沖田は面白がって話かけた。

「旦那はどうしたんでぃ」

「銀さんは、割りの良い日雇いの仕事を紹介してもらったんで、空腹をおして出かけてます」

「……割の良い仕事……」

土方の脳裏に浮かんだのは"自分のこと"だった。

もしかして他にも自分と同じようなことをする相手がいるんだろうか、なんて考えたら無意識に眉間に深いシワが出来ていたようだ。

新八がそれに気付いて慌てて言い訳をする。

「あ、あのっ、けっして怪しい仕事じゃないですよ!」

「パー子アル」

「神楽ちゃん、めっ!本当に大丈夫なんです!怪しい仕事はよっぽどじゃないとやりたくないって言ってたんで!」

かまっ娘クラブでオカマになっているなんて土方たちには知られないほうがいいだろうと判断した新八は、必死に誤魔化そうとしている。

現状も"よっぽど"のように見えるのだが、貧乏に慣れっこの万事屋にはまだまだ序の口らしい。

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