原作設定(補完)

□その36
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#356

作成:2018/03/10




深夜の万事屋。

寝る仕度をしようとしていた銀時は、突然鳴り出した電話に出る。

「はい、万事屋銀ちゃん」

最近は仕事が少ないので、真夜中の依頼でも仕方なく受けなければならなかった。

だからそもそもが乗り気じゃないのだが、受話器から聞えてきた声に、

「…………分かった」

更に浮かない顔をしてそうとだけ返事をし、電話を切った。

着替える前だったので、そのまま万事屋を出た。

家には神楽が一人残されるが、寝惚けていても強盗ぐらいなら撃退できるし、それ以前に巨大な犬がガードしているので問題はないだろう。

そして15分ほど歩いてかぶき町のはずれにある、ネオンがピカピカ光すぎなんじゃないかと思える建物の前に立った。

主に男女がこっそり愛を育むための場所で、銀時は深い溜め息をつく。




ことの起こりは3ヶ月前。

久し振りにちょっと飲みに行き、ほろ酔い気分で帰宅する途中で不穏な気配に足を止める。

姿は見えないのに血の匂いが漂い、治まり切れない殺気が漂っていた。

静かなのでもう片付いているようだが、銀時はふらりとその気配のほうに足を進める。

そうしなくちゃいけないような気がしたのだ。

道幅はそう狭くはないが人通りの少なそうな道で、薄暗い街頭の下に立っている男は一人。

刀を握り締めた一点を見つめたまま動かない男の周りには、少し前まで生きていたであろう浪人風体の男たちが数名転がっていた。

おびただしい量の血で染まった周囲を見れば、ここでどんな乱闘があったのか銀時には想像がつく。

その異様さも。

転がった刀からして武器を携えた数名を相手に、生き残った男は無傷そうだった。

見慣れた制服、見慣れた顔の男は、銀時に気付いてゆらりと顔を上げる。

真選組副長、土方十四郎。

普段なら銀時の顔を見れば不機嫌そうな表情で喧嘩を売ってくる土方なのに、銀時を見つめる目は虚ろで焦点が合っていなかった。

『マズイ』

銀時は"その様子"に覚えがある。
攘夷戦争中に何人も変化するのを見てきた。

こんな時代であっても人が人を殺すのに抵抗がない者は多くなく、強靭な心を持ってると思われていても少しずつ病んでいく。

真面目で強い使命感を持っている者ほど限界まで我慢してしまい、そして突然超えてしまったその"限界"に心を壊して我を忘れてしまうのだ。

戦場なんて銀時のように適当でいい加減なぐらいが丁度良い。

高杉や桂が囚われそうになるのを、銀時と、元々何も考えていないような坂本で防いできた。

ふざけて馬鹿やって、二人を怒らせて。

そうすることで二人が正気でいられるように。

銀時はそのことを思い出して溜め息をつく。

解決方法が分かっているのに土方を放置できるほど銀時は無常ではないし、そうできない理由もあった。

「副長さんじゃん。あらら、これ全部一人で?」

「…………」

声をかけても反応なし。

「さすが、というか……むしろやりすぎじゃね?」

「…………」

「分かるよ、うん。ストレスの溜まる仕事だもんねぇ。だけどやりすぎは良くないよ。人を切ってストレス発散してるようじゃ、大人としてダメだと思うんだよね、僕は」

銀時のふざけた物言いにも反論してこない土方に、どう対処すればいいのかも銀時は分かっていた。

こうなってしまった人間を元に戻す方法は他にもある。

むしろその手段のほうが簡単で、そうとは知らずに自然に使っている手段でもあった。

「だからさ、土方くん、俺と寝ねぇ?」

銀時自身は囚われたことがないので分からない。

だが限界を超えるまでのモヤモヤは、肉体的なムラムラに似てるらしいのだ。

女房・彼女が居たり、定期的にそういう店で発散しているようなら壊れにくく、真面目で強い使命感を持っていて遊ばない男が壊れやすい。

なので土方が壊れそうになっているのは"らしい"とも言えた。

「…………あ?」

ちゃんと銀時の声は届いていたらしく、土方の目に正気が戻ってきたと同時に険しく歪む。

興味を示してくれたならこっちのもんだ。

「そんなイライラなんか、一発ヤれば発散できるできるからさぁ」

「……何言ってんだ、てめーは」

「ストレス溜まってんでしょ? だったらすっきりさせるのに協力してやるよ、と提案してんだけどね」

「……てめーがどうやって協力するってんだ」

「あ、ご心配なく。銀さん器用だから、土方くんでも気持ち良くさせてあげられるよ。お任せ」

「……てめーに任せるぐらいなら他を当たったほうがマシだろ」

「んま、失礼ね! ヤってみなくちゃ分かんないでしょ!」

「……どんなキャラだよ」

「それに、そんな格好で他に当たってたら、おネエちゃんドン引きだし?」

そう言われて土方は改めて自分の風体と当たりを見回した。


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