原作設定(補完)

□その36
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#351

作成:2018/02/23




かぶき町の路地裏の木箱に座り、銀時は深い溜め息をついた。

『……なんでこんなことになった……全然覚えてねぇ……』

夢であって欲しいと願いながら目をつぶり、そっと再び目を開けて自分の手を見る。

生命線はやたら長いけど金運線が皆無だと言われた自分の掌は、白いもふもふっとした毛に覆われピンク色の肉球が可愛くぷにぷにっとしている。

何度も何度も確認したが、どこからどうみても猫の姿だった。

「なんでまたこの姿ぁぁぁぁぁ!!!?」

そう叫んだつもりだったが響き渡ったのは「にゃぁぁぁぁぁぁ!!?」という悲痛な泣き声。

誰も答えてくれないので銀時は一人で昨夜を振り返る。

昨晩は土方とデートの予定だったのだが、時間を遥かに過ぎても待ち合わせの居酒屋に土方は来なかった。

"来なかったら土方のツケにして帰る"という約束になっていたため、銀時は遠慮なく安酒を煽って甘い物をたらふく食べて寂しいのを紛らわす。

いつの間にか眠ってしまったようで店の親父に閉店だと追い出され、やっぱり土方の姿がないことにがっかりしながら家に戻ろうとした。

その途中で、飲みすぎたせいで尿意を催し、脇道に入り木々の中をふらふら歩いて人目のなさそうなところで用を足した……のまでは覚えている。

なんだか見覚えのある風景だったような気がしないでもない。

「……ま、まさか……また"あそこ"でやっちまったのか!?」

呪われて猫の姿になってしまい猫達の争いに巻き込まれた数日間は、銀時の苦い思い出の一つだった。

しかも今回は一人。

役立たずでうるさくて面倒くさいヤツラでも、あんな状況で誰かが一緒にいるのは心強いことだったのだと、今更ながらに思う。

誰にも見つからなさそうな場所で現状を把握し冷静になってみた。

どうやら夢ではなさそうだし、元に戻りたいと願ってみても戻りそうにない。

自然に戻るのを待つしかないのかもしれないが、今回はどんなきっかけで戻れるのか分からないので、それまでどこか落ち着ける場所に移動しなければと歩き出す。

とはいっても心当たりは一箇所しかないのだが。

かぶき町をコソコソ時間をかけて歩いて辿り着き、見上げたのは万事屋の看板。

前回は桂たちとわちゃわちゃしていて戻り損ねたのだが、やっぱり落ち着くのは我が家だろう。

猫になってしまった姿を見て新八たちが気付いてくれるのが一番だが、前回のことは気恥ずかしくて結局言えずじまいだったのでそれは難しそうだ。

階段を登って玄関の前に座り、どうしたらいいかと考え込んでいたせいで背後の気配に気付かなかった。

「猫アル!」

神楽の嬉々とした声と同時ににゅっと伸びてきた腕に体を掴まれ、銀時は軽々と持ち上げられてしまう。

猫の姿でなくても銀時を持ち上げるなんて神楽には容易いことだったが、体が小さい分、見下ろす神楽が大きく見える。

「か、神楽っ!」

名前を呼んだつもりだったが、口から出たのはやっぱり「にゃー!」という猫の声。

神楽は嬉しそうにぎゅーっと銀時を抱き締めた。

「可愛いアル!!」

発展途上の神楽の体はそれでも柔らかかったが、それに照れている暇はなかった。

本人も失念しているようだが、飼っていた兎を抱き殺してしまったという苦い思い出を持つ神楽である。

「うがぁぁぁぁ!潰れる!実が出るぅぅぅぅ!!」

みしみしと軋む骨に叫び声を上げるが、「にゃぁぁぁぁ!」としか言えないので神楽には通じていない。

このままでは死ぬと思ったとき、奥から助けの声が聞えた。

「神楽ちゃん!だめだよ、苦しがってるから!」

「あ、忘れてたアル」

新八に注意され、神楽が慌てて力を抜いたので、銀時は助かったとぐったりする。



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