原作設定(補完)
□その35
8ページ/22ページ
沖田は銀時を連れ、土方の財布から金を出していろいろ店を回った。
銀時と一緒なら甘いもの系の店にも喜んで入ってくれるし、見た目は土方なので素性がバレても恥ずかしくはない。
それでも最初はまだ全部奢られることに躊躇っていた銀時も、普段食べないような珍しいスイーツにノリノリになってくれた。
「あぁぁぁ、美味かったぁ。今時の若い子たちはあんな美味いもん普通に食ってるんだなぁ」
「おっさんくせーぞ」
「それにしても、多串くんが甘いもの好きだとは知らなかったなぁ。しかもマヨもなしに」
"そんな気持ち悪いもの食えるわけねーです"と言いたくなるのを沖田はぐっと堪えた。
「……今、マヨを控えてんだ。そしたら甘い物が食いたくなっちまってな」
「ふーん?」
もちろん口からでまかせだが、そんなこともあるのかと銀時は納得してくれたようだ。
店を四件梯子したところで、沖田は時計をチラリと見る。
薬の効果が切れるまであと30分ぐらい。
銀時と会って告白などされなければ、土方の金で好きな物を買って屯所に戻っているはずだったのだが、それは諦めた。
その代わり、土方にとって良いことをしてやろうと思う。
「次はどうする? 甘い物ばかり食ったから、ちょっと酒でも飲みたいかなぁ。あ、居酒屋で良いよ」
銀時のほうからそう提案したのは、けっして奢られるのに慣れたからではない。
酒を飲むとなればもっと一緒にいられるかな、と思ったからだ。
だが銀時のささやかな希望は、予想外に裏切られた。
銀時の言葉に対して、
「……なんか甘い物食いすぎて気持ち悪い……」
そう言って土方は口に手を当てて顔を歪めていた。
「え!? だ、大丈夫か? じゃあ、早く帰ったほうが……」
内心がっかりしながらも土方を心配してそう言おうとした銀時に対し、土方は前方を指差して言った。
「あそこでちょっと休む」
「ん? わかっ……」
頷こうとして指が差したほうを見た銀時は、凍りついたように動けなくなる。
喫茶店とかかと思っていたのに、まだ明るいので点灯はしていないけれど、かぶき町のはずれに立ち並ぶ派手な装飾の建物の一つが見えた。
それはいわゆるそういうための宿泊施設というやつであり、確かに"ご休憩"と書かれてはいるが本当に休憩するためのものではなく。
「……えっと……あそこはぁ…………と、屯所に帰ったほうがいいんじゃないかなぁ……」
「無理……我慢できねー……」
うっと今にも吐きそうな顔をする土方に、銀時は慌てて手を差し伸べ、
「ええっ……ちょっ……もうちょっと我慢!」
自分は慣れているけど土方を道端で吐かせるわけにはいかないと、指定された建物に入る。
5分後。
部屋の中に入った銀時は、呆然としていた。
気持ち悪そうにフラフラだったはずの土方が、部屋に入った途端、興味深そうにあちこちを見て回っている。
「……へえ……ふーん……ほう……」
ラブホテル初体験の沖田としては、せっかくなので念入りに観察しておきたかったのだ。
その様子を見ながら銀時が怪訝そうに言った。
「……多串くん……具合は?」
「直った」
あっさりとそう答えた土方に、ここに入りたいと言い出した不自然さもあって、銀時は気まずそうだ。
『もしかして誘われてる?』
それはとてもとても嬉しく光栄なことではあったが、土方らしくない気がする。
告白した銀時の気持ちに答えてはくれたけれど、デートと称して一緒に居てくれたけれど、何か違和感があるような気がしていたのだ。
ましてやいきなりこんな場所に連れ込まれるなんて。
「……多串くん……どういうつもりだ? 会ったときから何かおかしくね?」
そう呟くような銀時の言葉を聞いて、沖田はハッと我に返る。
ついつい夢中で探索してしまったが、本来の目的を忘れていた。
時計を見たらもう5分前で、沖田は慌ててふらふらとベッドに座り込む。
「…う……やっぱ気持ち悪いかも」
「ええっ、ちょ、まっ」
さっきまで疑ってたくせに具合悪そうにしたら途端に心配になる。
『旦那も人が好いや……土方さんだから、ですかねぇ』
やれやれと思いながら、沖田は近寄ってきた銀時の服を掴んでぐっと手前に引き寄せた。
ふらついた銀時は両手をベッドに付いて倒れるのを踏みとどまったが、体勢は土方の上に覆いかぶさっているようなもので。
.