原作設定(補完)
□その35
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一方、足取り軽く屯所を出てきた沖田は、いつもと違う目線を楽しんでいた。
成長期なのになかなか近藤や土方の身長に追いつけないでいたが、今日は土方の視線で町を見下ろせる。
ちょっと前まであんなにだるくて辛くて鬱陶しかった身体が軽いし、懐には土方の財布を忍ばせてきたし、まずは団子屋でのんびりお茶でしようと決めた。
いつもの団子屋に向かうと、ちょくちょく遭遇する銀髪の天パーが視界に入る。
『相変わらず暇そうだな、旦那は』
そう思いながらこの姿でからかってやろうと近付いた沖田は、自分の身体がおかしいことに気が付いた。
心臓がバクバクしていて体温が上がっている気がする。
せっかく健康な身体になったはずなのに、自分の風邪が移ってしまったのだろうか。
だが風邪とはちょっと違うその変調が、どうやら銀時を見ていることで起きているのだと沖田は推測する。
そのまま団子屋に近付いていくと、銀時のほうも沖田に気付いて一瞬だけ嬉しそうな顔をした。
すぐにいつもの憎まれ口を叩くとぼけた顔になったけれど、間違いはないはず。
だってその顔を見た途端、ますます心臓の活動が激しくなったのだから。
『……へえ……土方さん……旦那のことをねぇ……』
土方の銀時に対する気持ちを知り、弱みを握ったという嬉しさより物珍しさが勝った沖田は、じーっと銀時を見つめながら団子屋までやってきた。
「よう、多串くん。相変わらず暇そうで江戸は平和だねぇ」
"てめーほどじゃねぇ、この腐れニートが"と言い返されるために言ったのに、土方は何も言わず、ただただ自分を見つめながら近付いてくる。
その目はなぜか物珍しいモノを見ているようで、
「……な、なんですかコノヤロー」
戸惑いながらそう言ったら、ようやく土方も我に返ったようだった。
「旦那」
「……旦那?」
「あ、いや、万事屋。てめーこそ暇そうじゃねーか」
慌てて言い直してみたが、おかしいと思っていても土方と沖田の中身が入れ替わっていると即座に判断できるはずもない。
「……暇じゃありませんんん。今日もこの店の団子が同じ味なのか確認しに来たんですぅぅぅ。立派な仕事ですぅぅぅ」
「どんな仕事だよ」
似たようなやりとりを土方としたことを思い出し、沖田は笑いながら言った。
やっぱり旦那とは気が合うなぁ、と思ったが故のことだったのだが、思わぬ動揺を銀時に与えてしまったらしい。
自分を見つめたまま顔を赤くしている銀時に、
「だ……万事屋?」
不思議そうに首を傾げると、銀時はぐっと何か決心したように真面目な顔になった。
「ちょ、ちょっと……」
それからおもむろに腕を掴まれて団子屋の脇道に連れ込まれる。
もしかしてとワクワクする沖田に、銀時は真剣だけど真っ赤なせいでなんとも言えない表情をして言った。
「あ、あのさ……ず、ずっと言おう言おうと思ってたんだけど……」
「……なんだ?」
「……お、俺さ…………多串くんのこと……好き、みてーなんだよね」
銀時からのこそばゆい告白に、沖田は『なるほど』と理解する。
土方の気持ちを推測したとき、もしかしてこの二人は誰にもバレないように内緒で付き合ってたのかも、なんて思ったのがそれ以前の問題だったようだ。
素直じゃないおっさんが二人で喧嘩しながらお互いに片想いをしていた。
沖田は爆笑してしまいそうになるのを堪える。
銀時の前にいるのは、告白されたのはあくまで土方なのだから、今は爆笑してはまずい。
そのかわり、精一杯"可愛い"つもりの笑顔で答えた。
「俺もだ、万事屋」
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