原作設定(補完)
□その35
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#342
作成:2018/01/27
「39.2度……完璧に風邪ですね」
「ちがっ……ゲホッゲホッ……」
「決まりだ。今日は外出禁止。大人しく寝てろ」
「いや……ゴホッ……でぃ……」
熱で真っ赤になった顔の眉間に皺を寄せて反論しようとした沖田だったが、喉も痛いし咳も出るしでうまくいかなかった。
そんな姿を心配そうに見つめる山崎と、笑いを堪える土方。
今日は久々の非番でのんびり買い物にでも行こうと思っていたのに、身体が言うことをきかない。
土方を喜ばせているかと思うと余計に腹立たしい。
「それじゃあ医療班に言って往診してもらいますね。沖田隊長、こんなときぐらい大人しくしててくださいよ」
余計な一言を加えて山崎は部屋を出て行き、土方立ち上がる。
これだけ具合が悪ければさすがに見張りをつけなくてもウロウロしようとはしないだろう、と判断したようだ。
「さて、元気な俺は出かけてくるかな。お前の分も楽しんできてやるよ」
非番でも普段は外出もせずに仕事してることが多い土方なのに、最近は出かけることが多くなった。
その理由を沖田は知らないが、自分がこんな状態なのに"土方のくせに"遊びに行こうなんて。
苦々しく思ったとき、秘蔵コレクションしているアイテムがあることを思い出す。
「……土方さん、頼みがあるんですが……」
「…………な、なんだよ」
本当に大人しくされたらされたで不気味なので、思わず身構える土方に沖田は潤んだ瞳で言った。
「……お菓子、取ってくだせぇ」
「…………は?」
「机の引き出しに入ってるお菓子。そのぐらいならかまわねーでしょう」
病人からの頼みごとなのに土方はちょっと躊躇った後、疑いながら言われた机に近付く。
警戒しつつ引き出しを開けたが何か飛び出してくることもなく、中に入っていたのは小さなスプレー缶のようなもの。
恐る恐るをれを取り出す。
「……菓子って……これが?」
「押すと甘いのがもこもこ出て来る駄菓子なんでさぁ」
菓子には詳しくない土方だったので、そんなものがあるんだなと缶を沖田に渡そうとした。
ところが沖田は、
「力が入らねーんで食べさせてくだせぇ」
なんて言い出して口をあーんと開けたのだ。
土方が咄嗟に考えたのは、『熱がありすぎて頭がおかしくなっちまったんじゃねーのか!?』ということだった。
沖田が子供のころに出会ってから今まで、一度だって甘えられたことなどなかったのだから。
だが、口を開けたまま待っている病人相手に、しかも発射口もその病人に向けているのだから、危険はないだろうと思えた。
なんだか照れくさいような気持ち悪いような気まずいような、そんな気持ちでスプレー缶を沖田に向けて土方はノズルを押した。
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