原作設定(補完)
□その35
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#345
作成:2018/02/06
土方が部屋に引き篭もって7日が経過していた。
食事も部屋に運ばせ、屯所どころか部屋からもほとんど出られないでやっていることといえば、書類の整理、整理、整理。
ゴタゴタしていて後回しにし溜めてしまった自分が悪いとは思うのだが、ここで踏ん張っておかないと来月の年度末に大変なことになる。
聞きたい声も見たい顔もモフりたい頭も我慢したおかげで、もう一踏ん張りというところまできた。
そんな土方に襖の向こうから山崎が声をかける。
「あのぅ、すみません、副長」
返事はしなかったが書類の整理中だと知っている山崎はそーっと襖を開けた。
その申し訳なさそうな顔に、嫌な予感がドッと押し寄せてくる。
同じく部屋で書類の整理をしているはずの近藤が逃げたとか、沖田が外で暴れてまた書類を増やしたとか。
眉間にシワを寄せる土方に、山崎は報告する。
「えっとですね、実は7日前から副長宛に妙な手紙が届いてまして……」
予想外の内容だったが、その不審さに土方は眉間を更に寄せた。
局長、副長宛の手紙はすべて一度調べられてから届けられる。
山崎がその手紙を妙だと判断して土方に渡さず、一週間も経過してからの報告になったのは仕方ないことだった。
「……で?」
「はい。しかも匿名だったんで放置してたんですが……もしかしたら、万事屋の旦那からなんじゃないかと……」
「……万事屋?」
その名前を聞いた途端に土方の眉間からシワが消えた。
警戒の必要はなくなったが、別な疑問が湧いてくる。
「よこせ」
「はい。あ、一応薬物等の検査はしてあります」
そう言って山崎が持ってきたのは普通の茶封筒が7枚と、中身を束ねたもの。
あて先は確かに土方で、わざわざ切手を貼って投函されている。
今まで銀時から手紙を貰ったことなどない。
なぜわざわざこんなマネを、と思いながら白い便箋に目をやると、一枚目には大きな文字で"チ"と書かれていた。
「……あ?」
怪訝そうに土方は便箋をめくり、次には"ヨ"、更に次には"コ"。
嫌な予感がして、便箋を畳みの上にべらーっと広げてみる。
"チョコください"
山崎のことだからちゃんと届いた順に並べてあるはずの便箋にはそう書かれていた。
「……何してんだ、アイツ……チョコ? 切手を買う金があるならそれで買えば……」
銀時の意味不明な行動に文句を言おうとした土方だったが、ふと気付いてカレンダーを見た。
2月14日。
「…………ああ…………」
どうやらバレンタインデーのチョコを遠まわしに強請るための手紙だったようだ。
こんな手を使わなくても直接言えばいいのに、と普通なら思うだろうが、今回はそうもいかなかった。
土方が仕事で屯所に篭もりきりなのを知っているので、くだらないことを言うなと一刀両断される可能性がある。
だから、邪魔をしないように、そして会いたいというメッセージを込めて手紙にしたのだろう。
土方はふっと笑って筆を取り、ラストスパートを頑張る気にさせてくれた礼はしてやろうと思うのだった。
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