原作設定(補完)

□その35
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#344

作成:2018/02/04




万事屋に微妙な空気が流れていた。

ソファに座った銀時は、落ち着かない気分で目の前にいる土方をチラリと見た。

恋人と二人きりなのに土方はテーブルに視線を落としたまま、無表情で押し黙っている。

夕方、急に万事屋を訪ねてきたとき土方は普通だった。

新八と神楽にお土産まで持参し、家に帰る新八と着いて行く神楽を見送ったあと、急に黙り込んでしまったのだ。

急に非番が無くなることもあれば、急に非番になることもある。

予定外の非番だったのに、ちゃんと自分に会いに来てくれた土方と久し振りにイチャイチャできると思っていた銀時は、沈んだ空気に躊躇うばかり。

もちろん機嫌を直してもらうための努力はした。

面白い話をしてやったり、土方の好きなマヨを出してみたり、お疲れの肩を揉んでやったり。

だが土方の表情はぴくりとも動かない。

なので、銀時は小さく溜め息をついて放っておくことを決めた。

どうやら原因は自分じゃないようなので、土方から動くのを待つことにしたのだ。

銀時に対して何か不平不満があるなら黙っているはずもなく、厳しく怒鳴るか、冷静に問題点を羅列するはずだから。

こうして来てくれたのだからいつかは話してくれると思う

それまでジャンプでも読もうかと思ったとき、土方が呟くように口を開いた。

「……昨日……」

「ん?」

「……節分だったろ……」

「ああ、そうね」

「屯所で毎年豆まきすんだよ……近藤さんがやりたがるから」

「……へえ」

「……だから……毎年俺が鬼の役をやらされるんだよ……」

「……ああ……」

"鬼の副長"に鬼役をやらせるなんて、きっと沖田が言い出したに違いない。

そして普段のうっぷんを晴らそうと隊士たちがムキになって豆をぶつけてくるので、変なところで繊細な土方は落ち込んでしまっているというわけだ。

日頃の土方の厳しさを思えば隊士たちの気持ちも分からなくはないが、土方がこんな風にしてる姿なんて見たことがないんだろう。

逆に言えば、こんな姿を見せるのは自分にだけかもしれない、と思えば土方には悪いがちょっと嬉しくもある。

が、話はそれで終わらなかった。

「……だけど……今年はなかったんだ……」

「……何が?」

「……節分……豆まきも……」

「近藤居なかったのか?」

「居た。でもやらなかった」

となると銀時の予想は外れたので、それが落ち込んでいる理由ではないらしい。

「……だったら豆ぶつけられなかったんだろ? 良かったじゃん」

「………………」

「……他になんかあんの?」

「……去年……俺が、もうやりたくねーって怒ったから、やめちまったのかもしれねー」

土方の繊細さは銀時の予想を上回っていた。

痛い思いをしたのだから怒って当然だったのに、そのせいで近藤が豆まきを自粛してしまったのじゃないかと気に病んだようだ。

しょんぼりしている土方に、

「…………ぷっ……ぶははははははははっ!!」

悪いが銀時は大爆笑してしまう。


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