原作設定(補完)
□その35
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#343
作成:2018/02/03
土方十四郎はかぶき町の商店街をトボトボと歩いていた。
私服姿だというのに鬼気を纏い不機嫌そうな顔をしているため、誰も近寄ってこようとしない。
「……何が節分だ……はしゃぎやがって……士道不覚悟で切腹させんぞ……」
ぶつぶつと呟いている内容も物騒だった。
2月3日の早朝、土方の寝起きを襲ったのは沖田のバズーカではなく、大量の豆。
沖田が先導したに決まっているが、日頃の鬱憤を晴らすためなのか隊士たちが総出で土方を襲う。
「鬼は外! 鬼は外ぉぉ!!」
「いてっ! おい、てめーら、何
を……」
「すんません!今日は節分っす!鬼に豆をぶつける日っす!!」
「節分はそれだけじゃねーだろ!」
「局長命令なんで!鬼は外ぉぉぉぉ!!」
ということが繰り返され、たまらず屯所の外に出てきてしまったのである。
きっと今頃はしてやったりと"鬼の居ぬ間に"を堪能しているはずだが、戻ったらまた豆をぶつけられるので帰るに帰れない。
侍として立派な隊士になって欲しいがために鬼に徹してきたというのに、この仕打ちはあんまりだ。
心なしか道行く一般人を自分を嫌悪の目で見ている気がして、帰る場所も行くあてもない土方は切なくなってしまった。
そんな中、
「あ!!トッシー見つけたアル!!」
「土方さぁぁぁぁん!」
歓喜の声を上げて飛びついてくる姿が2つ。
自分を見つけて嬉しそうな顔をする新八と神楽に、落ち込んでいた分、感激した土方だったが、
「……お前ら……」
「トッシー、あれ買って欲しいアル!!」
「お願いします、土方さん!!」
そう言って店先を指差されて、がっくりと項垂れた。
「金かよ」
銀時と付き合い始めて万事屋に出入りするようになったせいで、新八と神楽に懐かれたのは良いものの、どうも嫌な勘違いをされている気がする。
が、期待で満面の笑みを浮かべている二人に、朝から良いことがなかった土方は甘えられて悪い気はしない。
仕方ないという顔で指差す店に行くと、二人が買ったのは大量の豆だった。
「……お、俺にぶつける気か?」
思わずそう訊ねてしまった土方だが、二人は呆れた顔をする。
「そんなもったいないことするわけないアル」
「あははは。もしかして豆をぶつけられて屯所を追い出されたからしょんぼり歩いてたんですか?」
きっぱり否定する二人にホッとしながらも、じゃあ何のために豆を買ったのか。
答えは別な意味で切なくなる話だった。
「新八!これで今年は、夜中に巻かれた豆をこっそり拾いに行かなくて良いアルな!」
「冷たい水でよく洗って乾燥させて保管しなくてもいいんだよ」
「キャホォォォォ!」
悲しくて心臓が鷲づかみにされていると、
「うちの子たちの幸せはささやかだねぇ」
なんて呑気に呟きながら背中にむぎゅーっと寄りかかってくる、諸悪の根源を土方は睨みつけた。
「誰のせーであんな子になったと思ってんだ」
全ては雇い主で保護者のコイツが不甲斐ないせいだと、土方に非難の目を向けられても銀時はケロッとしている。
「違いますぅぅ。俺のおかげで、豆であんなに喜べる素直で可愛い子になったんですぅぅぅ。今日日、あんな子供はそんじょそこらにはいねーよ?」
そう言われてみれば、豆を人にぶつけて家(屯所)から追い出す連中を見てきたばかりなので、一理あるなと土方は思ってしまった。
土方がどんな目に合ったのかだいたい想像がつく銀時は、にいっと笑ってダメ押しをしてやる。
「今日は帰れねーんだろ。うちなら"鬼"も大歓迎だよ、副長さん」
本日は非番ではなかったが、特別急ぎの仕事の予定も入っていない。
屯所を追い出したのも帰れないのも自分のせいじゃないので、その言葉に甘えようと思っているのに、
「……福も来ないんだから、鬼ぐらい入れて当然だな」
素直じゃないことを言いながら、土方は嬉しそうに笑うのだった。
おわり
節分ネタ!
本当は違うネタを考えていた……のを思い出したのですが、
オチが決まってなかったので、行き当たりばったりの話になりました。
のわりは、ちゃんとした話になったかな。