原作設定(補完)
□その34
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というわけで、万事屋の和室には布団が2つ並べられている。
「……俺の布団はいいのに……てめーと一緒で……」
「えっ!? いや、でもうちの布団はみんな一人用だし! 一緒に寝たんじゃ疲れが取れないよ! 土方くんにはゆっくり休んで欲しいからね!?」
「……分かった」
自分の身体を案じてくれている銀時に土方はそれ以上何も言わず、だけど銀時が居ない間にこっそり布団の間を詰めて大人しく別の布団で眠りについた。
本当に疲れていたのだろう。
すぐに寝息をたてて眠ってしまった土方の横に座り、銀時はそっと顔に触れようとした手を止めた。
今触れてしまえばきっと後で後悔する、そう自制心が効いたようだ。
ソレがなぜ薬を飲ませる前に出なかったのか、と自分自身を恨みながら銀時は和室を出てソファに寝転がると、深く溜め息をついた。
早朝、フラフラと銀時は万事屋に戻ってきてソファにばったりと倒れる。
昼間は数少ない依頼を新八たちに任せ電話番。
夜はかぶき町のみならず江戸の繁華街を回って人探し。
そんな日がもう一週間も続いていた。
「……くそぉ……どこにいやがる、黒いモジャモジャめぇぇぇ……」
薬の解毒剤的なものを手に入れようと、坂本を探し続けているのだが、もともと神出鬼没だったためやはり見つからない。
ひょっとして地球に居ないのかと、通信で連絡がつくようにも取り計らってみた。
向こうから連絡がないと話もできないというのは不便なもので、昼間は半分寝ながら電話が鳴るのを待つしかなかった。
「夕方ぐらいにトッシーから電話きてたアル」
毎朝帰宅してから神楽にそう報告されて、銀時はますます申し訳なくなる。
早く薬の呪縛から解放してやらないと、と気持ちばかり焦る銀時に待望の電話がかかってきたのは翌日のこと。
「何の用じゃ」
狙い通りにどこからか知らせが入ったのだろう、受話器の向こうで陸奥の声は迷惑そうだった。
「てめーんとこの大将どこに居るんだ!?」
「坂本か? 知らん」
「アイツに会って解毒剤を……って、そういやあの薬を調達したのお前だったっけ? お前、持ってんのか!?」
「? 何を言っとるんじゃ?」
「お前が坂本に渡した……惚れ薬の話だよ!」
「……ああ……おまん、アレを使ったがか」
銀時の焦りとは裏腹に陸奥の声は落ち着いていて、そんなものを使った銀時に呆れてさえいるようだった。
いろいろ思うところはあるだろうが、それを聞いている暇はない。
「解毒剤!すぐに必要なんだよ!」
「いつ飲んだんじゃ?」
「あ? ……1週間前、ぐらいだけど」
「だったら大丈夫じゃ。そろそろ効果が切れるころぜよ」
「え……そうなの?」
どやら効果は一時的なものだったようで、銀時は途端にホッとして気が抜けてしまった。
もちろん、その後どうなるのか疑問はたくさんあるけれど、これで土方が銀時を好きで迫ってくることもない。
そう思ったら、それはそれで寂しかったり切なかったりする複雑な心境になる。
電話越しにも銀時の焦りや安堵が伝わっていたらしく、陸奥が怪訝そうに言った。
「あの程度の惚れ薬で何を焦っとるんじゃ」
「あの程度って……ああ、俺がアイツから貰ったのは効果が強いほうなんだよ」
銀時にそう言われ陸奥はしばらく黙ったあと、失笑気味にとんでもないことを言い放ってくれた。
「……ふっ……坂本が何を言ったかはだいたい想像がつくが、ワシがアイツにそんな強力なモノを渡すわけがなか」
「…………いや、だけどアイツ、3本持って……」
「中身は全部同じじゃ。せいぜいお茶を一緒に飲んで貰える程度の効果しかないモノぜよ」
説明されているのに銀時の頭には?マークが乱れ飛ぶ。
お茶を飲める程度のもののせいで土方があんな風になってしまったのだろうか。
混乱しながらでも閃くものがあった。
もしかして"食い合わせ"のようなもので、変な効果が発動してしまうことがあるのかもしれない、と。
「だ、だったら、相性が悪いとかあんのか? 煙草やマヨネーズを過度に摂取するヤツが使うとおかしくなるとか」
「煙草?マヨネーズ?そこまでは知らんが…………ああ、でも、もともと好意を持たれている相手に使うと過度に反応してしまう、ちゅう話じゃったような」
坂本に与えるのなら必要な情報だったので失念していたように陸奥がそう言うと同時に、銀時は受話器を放り出して駆け出した。
電話の向こうで陸奥が怒っているような気はするが、それどころじゃない。
『だったら……だったら、あの土方くんの反応は、もしかして、もしかしますかぁぁぁぁ!!?』
銀時は愛車に乗るのも忘れて真選組屯所まで走って向かった。
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