原作設定(補完)

□その34
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翌日。

懐に忍ばせた薬のせいで、昨夜あれほど飲んだのに今朝は二日酔いにならず
に済んだ。

それどころか、これを使うことを想像しては緊張して心臓がバクバクしてしまう始末。

二日酔いよりタチが悪い、と思いながら銀時は団子屋の前の長椅子に座っていた。

昼間ならこの団子屋で遭遇する確率が高いからで、もしチャンスがあったらこの薬を飲ませてみたいと思っている。

『……茶ぁ飲むぐらいなら……大丈夫だよな……』

居酒屋の暗い明かりの下でこっそり顔を盗み見するのではなく、明るい太陽の下で正面から顔を見て茶を飲みたい。

そんなささやかなことを願う自分に恥ずかしくなりながら、一度落ち着こうと深呼吸した銀時の目の前に見慣れた制服が飛び込んできた。

当たりをキョロキョロ見回しながら不機嫌な顔をした真選組副長は、銀時を見つけて更に眉間のシワを深くする。

「なんだてめーか」

いつもならソレに憎まれ口で応戦する銀時だったが、今日はそれができなかった。

なにせ、懐の内で握り締めた瓶の中身を飲ませる相手なのだから。

「……ひ、ひじ……」

「総悟を見なかったか」

「……沖田くん?」

「毎回毎回チョロチョロと逃げ出しやがって」

苦々しい顔をしているのは銀時のせいではなく、どうやら沖田のせいだと知ってホッと息をつく。

土方を怒らせたり悔しがらせることを至福としている沖田のおかげで、銀時には"きっかけ"が出来た。

逃げた沖田ならきっと面白がって、追いかける土方の後からやってくるに違いない。

「お、沖田くんならもうすぐ来るんじゃないかなぁ。追いかけるより待ってたほうが早いと銀さんは思うよ」

後ろめたさと緊張でぎこちなくなる銀時に、

「あ?そんな暇は……」

文句を言おうとした土方だったが、何か思うところがあったのか、小さく溜め息をついて立ち止まる。

追いかけるのに疲れてしまったように、銀時の座る長椅子に腰掛けた。

「……少し休むか」

「まじでか! じゃ、じゃあ、銀さんがお茶を貰ってきてあげよう。仕方ないなぁ」

銀時はすかさず立ち上がって団子屋の店内に入っていく。

そしてお茶を頼むとそれを受け取り、土方のところに戻る途中で瓶の中身を茶碗に注いだ。

一瞬躊躇ったが、こんなシチュエーションが何度もあると思えない。

お茶を運んでくれる、なんてらしくないことをする銀時に土方はおかしな顔をしていたが、銀時は薬の入った茶碗を差し出す。

「はい、どーぞ」

「……どうも」

椅子に座り直しながら、土方がお茶を飲むのを凝視していたらあやしいかと視線を逸らし、視界の隅でドキドキとその様子を伺う。

土方は受け取った茶碗を疑いもせずに口に運び、ごくりと飲み込んだあと、ぴたりと動きを止めた。

茶碗が手から落ちて地面に転がり、その手で口を覆う。

「……っ……」

「!? 土方くん!?」

「…よ……万事屋……」

様子のおかしい土方に、銀時は自分がとんでもないことをしてしまったと気付いた。

いくら陸奥なら信用できるとはいえ、得体の知れないものを土方に飲ませてしまったということ。

どうやったら吐き出させることができるかと土方に近寄った銀時の手を、震える土方の手が掴む。

そして、

「よ、万事屋……好きだぁぁぁぁぁ!!!」

そう叫んでがばぁっと抱き付いてきた。

「……!!?」

ぎゅうぎゅうと抱き締められ、真昼間の商店街だけに通行人の視線に取り囲まれながら、銀時は軽くパニックに陥ってしまう。

「ちょっ……土方くん!?」

「てめーが好きなんだ!俺を……てめーのものにしてくれ!!」

隊服を着た土方のご乱心に周りが驚愕しているのは分かる。
されている銀時はもっと驚いているのだから。

パニックになりながらも、どうしてこうなったのか銀時は考えた。

顔を合わせたときの様子を考えても、原因はお茶に入れた薬しかない。

だが、あの薬はお茶を飲める程度の効果しかないはずなのに、そう思ったとき、昨夜の会話が蘇ってきた。

『えっと、"い"が弱い……あれ? "は"が弱い、じゃったかのう』

自信なさげな坂本のアホ面。

ラベルに"い"と書かれたほうが効果の弱い薬だと信じて土方に飲ませたが、この大袈裟で過大な反応は……。

『!!!! やっぱり逆だったんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!!』

"い"のほうが効果の強い薬だったのだろう。

自分にべったりぴったりくっついている土方に、銀時は本当にとんでもないことをしてしまったこと知る。


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