原作設定(補完)

□その34
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副長室から遠くの部屋で隊士たちが騒ぐ声が聞える。

宴会が始まってだいぶ経つので、そろそろ裸踊りとか始まっている頃だろう。

何度も誰かが土方を誘いに部屋を訪ねてきたが、最初の乾杯だけ参加して、その後は部屋に篭もったままだった。

騒ぎすぎているからと乗り込んで行ったら、その場をしらけさせるだけだと知っている。

次に副長室に誰か来るときは何か問題が起きたときだけだろう、と思いながら土方は携帯を見た。

仕事をしに戻ってきたはずなのに、遅々として手が進まない。

不意に空き時間なんかできて銀時のことを思い出させたりするから、仕事に集中できなくなってしまった。

電話ぐらいしてみようか。

どうせ会えないんだから電話なんかしたら期待させてしまうだろうか。

でも声ぐらい聞きたい。

でもでも声を聞いてしまったら会いたくなってしまう。

そんなことを悶々と考えていたら、部屋に近付いてくる乱暴な足音に気付くのが遅れた。

バーンと襖が開いたので心臓が止まるぐらい驚かされ、振り返るとそこにぜいぜいと息を切らした近藤が立っている。

「こ、近藤さん!? どうしたんだ!?」

「お、おまたせっ! 交代するからトシは休んでくれ!」

「……?? すまいるはどうしたんだ?」

「そ、それがさぁ、お妙さんは今日は休みだったんだよぉ……すぐに帰ってきたかったんだけど、店の女の子たちに引き止められちゃって……」

おそらく客の少ないであろう年の瀬に現われた小金持ちの近藤を、逃してなるものかとよほど強引に引き止められたのだろう。

あと一時間もすれば新年になってしまう、

「……別に帰ってこなくても大丈夫だったのに」

「こんなときぐらいトシを休ませてやらないとな。来年も俺と一緒に頑張ってもらわなきゃならないし」

そう言ってにいっと笑った近藤に、土方の胸はきゅんとときめくのだ。

それが憧れと尊敬だとしても、たとえ毎日毎日毎日毎日迷惑をかけられた上でのことだとしても。

「……分かった……じゃあ、ちょっと出かけて来る」

「おう、ゆっくりしてこい」

近藤に背中を押されて土方は出かける支度をしようとして、慌てて携帯を手に取った。

一度断ったのだから銀時にだって他の予定が入っているだろうし、家にいるのかも分からない。

案の定、電話をかけても誰も出ず、それでも土方は多めに着こんで屯所を出た。



自分の吐く白い息を見ながら、騒がしいかぶき町を一人で歩く。

会えなかったらどうしようとか、まだ怒ってて素っ気無かったらどうしようかとか。

考えながら歩いていたので、背後から伸びてきた手に気付かなかった。

「!?」

抵抗できないまま口をふさがれ、建物の間に引きずり込まれる。

油断したと刀に手をかけようとしたとき、ぎゅーっと首に腕が絡んできてぴったりと身体を寄せられた。

そして安堵するような切なげな声は間違えようが無い。

「はぁぁぁぁ……あったか…………くないな」

がっかりしながら苦笑されて、土方だって寒いところを歩いていたのだから当たり前だろうと言いたくなった。

だけど声が出なくなるほど胸が苦しくなって、近藤とは全然違う意味でときめく。

黙ったままの土方に、あれ?と銀時が首を傾げて顔を覗き込む。

「多串くん? ……もしかしてまだ怒ってる?」

難しい顔をしているからそう思われても仕方ないが、嬉しくて緩んだ顔を見せたくなくて力を入れているのだ。

「……怒ってねぇ」

「仕事は? 最中じゃねーよな?」

「……休みになったんだよ」

土方はその理由を言いたくなかったが、むくれた表情で銀時はちゃんと察してくれたらしく、笑ってもう一度もふっと抱き締めてくれた。

「そっか。でも最後に銀さんに会えたから"終わり良ければすべて良し"じゃね?」

その言葉と同時に、人がたくさん居る表通りのほうがわっと騒がしくなった。

どうやら新年を迎えたらしい。

銀時とは長い付き合いになるが、この瞬間に一緒に居られるのは初めてのことだ。

心も体もほっこりと温かくなってきたのは、銀時の体温がようやく伝わってきたからだけじゃないだろう。

銀時が嬉しそうに言う。

「あけましておめでとう、多串くん。今年もよろしくね」

素直になるのは恥ずかしいので、精一杯の言葉で土方が答える。

「……おめでとう……仕方ねーからよろしくしてやらあ」

それすらも土方らしくて銀時は笑って満足気に擦り寄ってくるから、土方もそれには遠慮なく甘え返してやるのだった。



 おわり



あけましておめでとうございます。
朝日も昇らないうちからせっせと続きを書きまして、
イチャイチャしている二人をお送りしました。
路地裏でこっそりとイチャイチャしている二人……そんな感じで今年も頑張ります。
……銀さんの出番が少ない予感がします(笑)

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