原作設定(補完)
□その34
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これからの問題は誰がこれを着るかと言うこと。
「やっぱり真選組の穢れたイメージを払拭するには近藤さんが着るのが良いと思いやす」
「総悟くん!? 穢れたイメージって何!?」
「これで裸ゴリラから人参ゴリラになれまさぁ」
「人参ゴリラって、どんなイメージに払拭されてんの!?無理無理無理、子供泣くよ、俺には無理だよっ」」
「だったら土方さんが着るしかねーですね」
「だったら、って何だっ!俺だって無理に決まってんだろ!!」
「鬼の副長が、人参の副長になって大人気間違いなしでさぁ」
「それはもう人参になってんだろうがっ」
「じゃあ人間やめたらいいんじゃねーですかぃ」
「てめー……」
「まぁまぁまぁ、二人とも話がズレてるぞ。こうなったらさ、隊士たちみんなの投票で決めたらいいんじゃないか?」
「近藤さん!? そんなことしたらみんなが面白がって俺に入れるに決まってんだろ!」
「名案ですぜぃ。土方さんを副長の座から引き摺り下ろしてやりまさぁ」
「趣旨変わってね!?」
これ以上もめるのを回避するために近藤が提案した投票を行ってみたら、意外な結果になった。
「……と、投票の結果……ぷっ……当日の人参担当は……ふっ……総悟で決まりだ」
「…………納得できねー……」
「どうやらな、総悟が一番若くて可愛いから人参が似合う、ってことらしいぞ」
「……ちょっとこれから隊士たちに真剣で稽古をつけてきまさぁ」
「褒めてるんだぞぉ。着てみたらきっと似合うだろうから、頑張れ、な」
「…………」
近藤の笑顔に弱い沖田は、不承不承という表情でそれ以上は何も言わなかった。
久々に沖田にしてやったり気分の土方も必死で笑いを堪えながら、内心でアレを着ずに済んだことを喜んでいたため、これで終わるはずがないことを失念していたのだ。
その夜、沖田は上機嫌で副長室にやってきて、
「やっぱり人参は土方さんがやってくだせぇ」
と言い出したので、土方は露骨に嫌な顔をする。
「……隊士と近藤さんが決めたことなのに嫌だってのか」
「俺は嫌だとは言ってねーです。土方
さんがどーしても変わって欲しいって言うんで、仕方なく変わってやるんでさぁ」
「あ? なんで俺がそんなこと……」
脈絡もない話に土方が反論しようとしたら、沖田は懐から携帯電話を取り出した。
「この中身を公表するって言ったら、きっと土方さんは快く交代してくれるはずですぜ」
「!!?」
それは組に支給されている携帯なのでみんな同じデザインなのだが、沖田の言いっぷりでは持ち主は誰か想像に容易い。
土方は慌てて自分の身体や机の上を見渡すが携帯が見当たらず、沖田がにやりと笑ったのを見て核心した。
「てめー……それは……」
「言い訳は聞く必要ねーでしょう。イベントが終わったら返しますんで、土方さん、よろしくお願いしやす」
「……ぐっ……」
返事がないことを了承と取ったのか、沖田は機嫌よく鼻歌まじりで副長室を出て行った。
人参の着ぐるみを着なくちゃいけないことも、沖田にまんまとしてやられたことも、そんなことはたいしたことじ
ゃない。
一番の問題は沖田に知られてはいけないことを知られてしまったことだ。
絶望感でがっくりと項垂れたあの日のことを思い出していた土方は、
「土方くん? おーい、ひーじかーたくーん?」
銀時にそう声をかけられて我に返る。
急に黙ってしまった土方に、どうしちゃったのという顔を向けていた。
なぜこんな格好をしているのか聞かれていたのだと思い出し、
「……総悟の言うことに逆らえねぇ……そ
れだけだ」
諦めにも似た気持ちでそう呟く。
「弱みでも握られた?」
「…………そんなとこだ。分かったらもう帰れ」
いつものノリで怒鳴ってくれたら言い返すこともできたのに、静かに言われると逆に従わなくてはいけない気分になる。
そもそも銀時が屯所に乗り込んできたのは、土方が妊娠したという噂話のせいなので、それが間違いだったと分かったことで目的は達成していた。
素直に土方の言葉に従って部屋を出てから、
「……土方くんがあんな姿になってまで知られたくない弱みってなんだろうなぁ」
それを使えば土方も自分の思い通りになってくれるのだろうか。
そんなことを考えた頭をぶんぶんと振って溜め息をついた。
それじゃあ土方は笑ってくれない。
怒りながら笑って側にいて欲しいのだから。
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