原作設定(補完)
□その34
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「それがなー……そうもいかねーんだわ。おーい、ぱっつぁん! 土方くんに味見用の素餅を持ってきて」
「はーい」
「!?」
意味深な言い方で銀時は新八に何か持ってくるように頼み、ほどなくして出てきたのは何も味付けがされてない餅。
反応を見るためにじっと見つめてくる銀時に、土方は恐る恐る焼きたての餅を口に入れた。
数回噛んで眉間に小さくシワを寄せ、
「……いまいち……」
そう呟くと、銀時が"やっぱりね"という顔で頷く。
食感はちゃんと餅なのだが、味がなんとなく"古臭い"という曖昧な感じがした。
「そもそも、この大量の餅をつくるためのもち米をどうやって用意したと思う? 下の店のばーさん、どっかの店の倉庫に眠っていた古古古古古古ここここ……」
「もういい」
「……そこまでじゃねーけど、まあ何年も前の古米をタダで貰ってきたらしいんだわ。食えないことはねーけど味がいまいちだろ? それを知ってるからかぶき町の人間は買ってくれねーし、外の人間に売るってのもさー気が引けるじゃん」
そのぐらいの良心はあるらしい。
「まあ、幸いうちには大食漢の小娘が居るし、助かるっちゃー助かるんだけど、いかんせん味付けがね……砂糖と醤油だけじゃもう限界だったのよ」
うんざりする銀時の前に、神楽が不満そうな顔でやってくる。
「私は砂糖と醤油だけでも十分美味しかったアル」
「お子様はな。大人は甘いのも辛いのも酸っぱいのも交互に楽しみたいの。それが人生ってもんなの」
「だったら思う存分噛み締めてください」
新八と神楽は両手に持っていた皿をテーブルの上に並べた。
土方の買ってきた食材に、基本的には絡めるだけの簡単な料理だが、砂糖と醤油以外の匂いがするだけで感激だったのだろう。
「納豆!きなこ!お雑煮!!」
「磯部!大根おろし!お汁粉!」
「全部美味そうアル!!」
テンションの上がる万事屋一行に対し、ずっと普通の食事を食べていた土方はそれに同調できずにいた。
それを見た銀時が側に寄ってこっそりと提案する。
「ある程度食ったら外に飲みに行こうか?」
忙しい年末年始を乗り越えてようやくの休みなのだから、土方もそうしたいと思っていた。
だが、いまいちな味の餅を美味そうに食べながら、
「餅パーチー楽しいアル!」
神楽がそう言って嬉しそうに笑ったのを見て、懐かしい気持ちになった。
遠い昔、近藤と出会ってあの道場で世話になることになり、始めての正月のことを思い出す。
近藤が実家からありったけの餅を持ち出してきて、総悟とミツバと四人で食べたことを。
その時の餅は近藤の父親が新米で作らせたものだったので餅自体がとても美味しかったのだが、それ以上に自分にはもう手に入らないと思っていた"家族の時間"がそこにあった。
ずっとテンション高く盛り上げようとする近藤と、嬉しいくせに興味ないようなフリをする総悟と、楽しそうに料理を振舞っていたミツバ。
「美味いし楽しいな!これから毎年餅パーチーやろうな!」
そう言って笑った近藤のことを思い出したのだ。
近藤との餅パーティーは江戸に来ると同時に終わってしまったけれど、新しい餅パーティーがここにある。
それはとても嬉しいことだった。
「……ここでいい」
銀時の提案に対して土方はそう答えた。
それを聞いて銀時は内心でがっかりする。
酒でも飲んでほろ酔いでしっぽりやりたいと思っていたのだが、土方がなんだか嬉しそうなのを見て、まあいいか、と思う銀時だった。
おわり
なんとなく思いついたお正月ネタでした。
相変わらず極貧の万事屋で書きましたが、
年末年始って万事屋もけっこう忙しいんじゃないかと思う(笑)
餅つき大会とかはあのかぶき町ならやってそう。