原作設定(補完)
□その34
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その頃、真選組副長室では土方が一人、悶絶と苦悩を繰り返していた。
『お、俺は……なんて事をしちまったんだぁぁぁぁ!!』
今朝自室で目が覚めたら、なんとなくぼんやりしていた視界が晴れたような気分になっていて、「なんだ?」と首をかしげ記憶を掘り起こしてみたら、銀時に対しての数々の醜態を思い出したのだ。
銀時を好きだと自覚してから必死に抑えてきたのに、あの日、唐突にどうしても言ってしまいたい衝動にかられた。
原因は分かっている。
正月の警備の合間、こっそり神様に祈願してしまった。
『今年こそ、万事屋と喧嘩せずにお茶ぐらい飲めるようになりますように』
そう願っても素直になれない土方だったが、あの時は銀時から茶を勧められて、神様にお願いするだけじゃなく自分で行動しなければと、隣に座ってお茶を飲んでからからの記憶がぼんやりしている。
『神様、お願いを聞いてくれたのは嬉しいが、余計なサービスはいらなかったぞ』
暴走した土方の告白に、銀時は戸惑っているようだったが拒絶はしなかった。
それが嬉しくて万事屋に押しかけるようなマネまでしてしまったこと。
その後は銀時が仕事で忙しいとかで会ってもらえず、やっぱり無理なのかと落ち込んでしまったこと。
今、はっきりした頭で考えてみれば無謀で情けない自分に、後悔してももう遅い。
言ってしまったことも、行動してしまったことも、もうやり直せないのだから。
土方は大きな溜め息を一つついてから、ぐっと気合いを入れて姿勢を正す。
銀時に会ってもう一度ちゃんと気持ちを伝えてみたい、そう思ったとき、庭に面した障子がバーーンと勢い良く開いた。
そこに立っていたのはゼィゼィと息を切らした銀時だった。
「……よ、万事屋?」
「……っ……ご、ごめん!!!」
土方を確認するなり銀時はべたんと畳に両手を付いて頭を下げて謝ってくる。
「……な、なにが……」
「あの日土方くんが飲んだお茶には…………ほ、惚れ薬が入ってましたぁぁぁ!!!」
「…………あ?」
「だ、だけどねっ、そんな大層な代物じゃなくて、一緒にお茶を飲めるぐらいの効果しかないはずだったんだけど……」
銀時はきょとんといている土方の顔を見てから、確かめるように言った。
「……ひ、土方くんが……俺のこと、す、好きだったりすると、あんな感じになっちゃう、らしいんだよね〜、ははは」
乾いた笑いでとんでもないことを言い出した銀時だったが、土方はなるほどと納得する。
どうやら告白してしまったのは神様のサービスなどではなく、銀時に飲まされた惚れ薬のせいだったようだ。
それからようやく銀時の言葉の意味に気付いた。
銀時が自分に惚れ薬を飲ませたのは、つまりは"惚れて欲しい"のだと。
その惚れ薬のせいで自分の気持ちも銀時にバレてしまったのだと。
「……っ……」
途端に土方の顔が真っ赤に染まり、銀時の問いかけを素直に事実だと認めてしまった。
それを確認した銀時は、へろへろっと体から力が抜けていく。
「良かったぁぁぁ……じゃあ、あれは土方くんの本音でいいんだ」
陸奥に薬の効果について聞いても、土方が自分を好きだったなんて信じられない、というか期待できなかった。
だけど今、土方の反応を見てようやく事実なんだと確かめた銀時は、安心して嬉しそうに笑う。
そんな顔をされてしまったら土方のほうだってもう意地を張ることができない。
ちょこんと銀時の向かいに座る。
「……て、てめーも……俺のことが好きだったのかよ……」
「……そう、なりますね……」
三十路前の男が二人向かい合ってモジモジしている姿は滑稽だろうが、そんなことが気にならないぐらい幸せな気分の二人でした。
おわり
長くなったなぁ(笑)
薬ネタは、沖田か坂本の仕業がオチっていうド定番でした。
泊まりにきて誘惑されたのに、なにもしないのがうちの銀さん。
はっ! しかもまたしてもちゅーもなしに終わってしまったよ(笑)