原作設定(補完)
□その34
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#340
作成:2018/01/23
時計を見ると0時を過ぎていた。
土方は小さく溜め息をついて書類整理のための筆を置く。
今日はもう寝てしまおう、と思えるぐらい毎日毎日机に向かうだけの生活に疲れていた。
着替えて布団に入って明かりを消して。
目を閉じる前に、銀髪のもじゃもじゃを思い浮かべる。
『……もう居ないだろうな……』
約束したわけでもないのに毎週同じ曜日同じ時間に同じ店で酒を飲むようになった。
約束したわけでもないから行けなくても連絡は必要ない。
だけど連絡もなしに行けないのは約束をすっぽかしているような気分がして、いつも何とか顔を出していたのに。
今日は無理だな、と諦めたときに電話すれば連絡はついたと思う。
が、約束したわけでもないのに連絡するのはおかしい気がして、結局出来なかった。
一緒に酒を飲む。
たかだかそれだけのことが叶わなかっただけで、なぜこんなに気持ちが沈むのか。
考えるのが嫌で土方は目を閉じた。
しんと静まり返った部屋、きんと冷えた空気。
雪が積もっている、そんな気がした。
ずっと部屋から出ないで何時間も篭もっていたために、そんなことすら気付かなかったのかと自分で呆れてしまう。
そんなことを考えるととき、庭でさくりと雪を踏みしめる音が聞えた。
静かに、こっそりと。
見回りの隊士が就寝中の土方に対してそんな気遣いをするはずないことを知っている。
足音は部屋に近づき、縁側に上がり、そして部屋の障子をそっと開けた。
寝相を正したまま刀に伸ばした手を止めたのは、外からの空気と一緒に酒の匂いが漂ってきたから。
真選組の屯所に誰にも気付かれず侵入できる者などそうそう居るはずがない。
「……不法侵入だぞ」
そう呟いたら、張り詰めていた空気が消えた。
「起こしちゃった?」
「……まだ寝てなかった。何しにきた」
よっぽどのことがあってこんなことをしたのだろうと、神妙な面持ちの土方に対して、銀時の返事はとぼけたものだった。
「雪、降ってるよ」
「……あ?」
「雪、今年初めて積もったねー」
「……だからなんだ」
「だから、今日は雪見酒でもと思ってたのに、多串くん来ないんだもん」
拗ねたようにそう言った銀時の、本意が何かは分からない。
一緒に酒を飲む。
それが出来なかったことを、不満に思って屯所に忍び込んで来た。
さきほど自分が感じた寂しさと同じものだろうか。
銀時がにやっと笑って持ってきた酒瓶を見せびらかしてきたので、彼の希望通り雪見酒でも飲みながらそれを聞き出してやろうと思う土方だった。
おわり
久し振りに雪が積もったので、それっぽい話を突発で書いてみました。
……怖いのは同じような話を書いてるんじゃないかということ。
……まあ、いいか(笑)
今日は暖かいからすぐに解けちゃうだろうなぁ。