原作設定(補完)

□その34
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#339

作成:2018/01/18




昼間は人の少ないかぶき町の通りを、銀時は全速力で走っていた。

相変わらず仕事がないので町内をぷらぷらしていたら、とんでもない噂話が聞えてきたからだ。

『どうしよう……どうしたらいいんだぁぁぁぁ!!』

動揺しながら向かう先は真選組屯所。
その目立つ風体のため顔見知りでない隊士にも認識されていて、

「ちょっ……旦那、あのっ……」

呼び止められたが銀時はそのまま門を突破して中に入り込んだ。

土方の部屋の位置は周知している。

いつか夜中にこっそり入り込んでイチャイチャできる日が来るかもしれないと、こっそりリサーチしていたのだ。

残念ながらその"願望"は実行できる関係になっていはいないけれど、そうなるように努力中だったのにあの噂。

噂話が本当なら、きっと自室で安静にしているに違いない。

途中で数名の隊士たちに会うも振り切り、副長室の襖をバーンと勢い良く開けて叫んだ。

「土方くん!!妊娠したってまじでか!!!相手は一体誰……」

「するかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

血相変えて部屋に飛び込んできた銀時のとんでもない発言を、土方は怒気をはらんだ声で切り捨てる。

本当に本気で怒っているのに、銀時はきょとんとした顔をしていた。

目の前にいる土方は、何故か巨大な人参になっていたからだ。

いわゆる顔だけ出た着ぐるみ姿なのだが、おおよそ土方には似合わない格好をなぜしているのか。

しかし銀時は冷静に対応したのだが、

「土方くん……似合うよ、その私服」

「私服なわけねーだろ!!!バカにしてんのかコラァ!!!」

逆効果だったようだ。

「可愛いのに」

「嬉しくねぇ!!いい加減その嘘くせぇ軽口をやめろ!!」

「軽口って?」

「か、可愛いとか……」

照れとかじゃなく心底いやそうな顔をしている土方に、銀時は切なくなりながらもこれ以上怒らせないように話を逸らす。

「いや、今日の格好はどう見ても可愛いだろ。なにそれ、なんでニンジンの着ぐるみ?」

どうやら噂話の元ネタは"土方が人参になった"が、伝言ゲームしていくうちに"土方が妊娠した"になったらしい。

バカバカしい話だったが、噂話というのはそんなものだ。

落ち着いて考えてみれば疑って当たり前なのに、鵜呑みにして屯所まで全力疾走してしまったこと銀時は内心で苦笑う。

それでも目は人参姿の土方に釘付けで、誰がなんと言おうと銀時には可愛く見えるのだ。

伸縮性のある着ぐるみなのか、器用に正座して不貞腐れた顔で土方は答える。

「……総悟が……」

「……やっぱりね」

「し、仕方ねーだろ。アイツが仕出かすことを全て防御することなんか無理なんだよ」

「まぁね。土方くんが嫌がることをするのがアノ子の趣味だもんね」

「……勘弁してくれ……」

「それで?」

人参になった理由を更に問いかける銀時に、土方は言いたくなさそうに口を閉ざしていたが、観念したように口を開く。

「……最近また真選組の評判が悪いってんで、二番煎じだがイメージキャラクターを作ろうってことになったんだ」

「ちょっ、お前らのイメージキャラクターはまことちゃんだろうがっ」

「アレが失敗だったから作り直すんだろうがっ」

「えぇぇぇぇ、お通ちゃんプロデュースなのにぃ」

食い下がってはみたが、銀時自身もあのキャラは無いなと思っていた。

だが土方の側に居られるというだけで請け負ったし、今後もチャンスがあれば喜んでまことちゃんになったのに。

あっさり却下されたということは銀時の出番はないようだし、こんな話をし始めたということはこの人参が新しいキャラクターなのだろう。

「……で? ソレが新しいキャラ? どういう意味で人参?」

「……い、意味は……ねぇ」

「……は?」

「イメージキャラクターは一般から募集しようかと相談していたら……松平のとっつぁんが……」

眉間にシワを寄せながら土方は松平の話を思い出す。

『こいつはうちの栗子が5歳のときに書いた絵なんだけどもよぉ、可愛くね? 武骨なお前らにはこういう可愛さが必要だとおじさんは思うわけよ』

そう言って拳銃片手に娘の落書きを持ってきたのだ。

人参が真選組になんの関係があるのか、とか、俺たちの可愛さが必要なのか、とか、言ってもムダなので言うことができず、あれよあれよという間に着ぐるみが出来上がってしまった。

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