原作設定(補完)
□その34
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#336
作成:2018/01/12
数回のコールの後、受話器が外れて応答する声が聞えてきた。
「……はい、万事屋銀ちゃん……」
「? 俺だ」
元気のない声に思わず掛けた相手を間違えたかと思ったが、土方の声を聞いて声がパッと明るくなる。
「多串くんっ、お仕事終わった!?」
「おう。今から出る」
「分かった!」
年末年始どころかクリスマスすらチラリとも姿を見せずにいた薄情な恋人に、銀時は怒りもせず嬉しそうな声を向けてくれる。
胸がきゅんとすると同時に申し訳なくも思うわけで、甘やかしたくなってもしかたない。
「あー……土産買っていく。何がいい?」
「まじでか! じゃあ…………数が多いからメモ用意して」
「……は?……」
「いい? えっと、海苔、納豆、きなこ、大根……」
「ちょ、ちょっと待てっ」
土方は慌てて机に駆け寄ると、いらない書類の裏にとりあえず言われた分を書き、
「よ、よし」
「あとね、ゴボウ、鶏肉、ツナ缶……」
次々と食材を上げられ、結局20品目ほどになっていた。
おねだりされる品物としては庶民的で安価だったが、食材として一貫性がない。
鍋の具材でもないし?、と思いながら訊ねると、
「来れば分かるから。じゃ、よろ!」
そう言って切られてしまった。
これはスーパーで探すのに時間がかかりそうだと、土方は急いで支度をして屯所を出た。
「いらっしゃい! 多串くん!!!」
「待ってたアル! きゃほぉぉぉぅ!」
「土方さん! ありがとうございます、ありがとうございます!!」
一時間後、両手にレジ袋を持って現われた土方を銀時はもちろん、子供たちも大歓迎してくれた。
銀時が土方に抱き付いている隙に、神楽が両手のレジ袋を奪っていき、新八が礼を言いながら神楽を追って行った。
一瞬のことで呆気にとられていた土方も、我に返って子供らの前で抱き付いてきた銀時を殴り飛ばす。
「てめー、なにすんだ! ぶっ飛ばずぞ!」
「ぶっ飛ばしてから言わないでくださ〜い」
それが照れ隠しだと分かっているので銀時はケロッとしていた。
これ以上殴っても自分の手が痛いだけそうなので、土方は諦めて部屋に上がる。
「……で? なんだ、あの買い物」
「それがさぁ……」
言いにくそうにしている銀時だったが、部屋に入ってすぐに事情は飲み込めた。
だが絶句はする。
「……!!!? なんだ、これっ!!」
「餅、ですけど」
「それは見れば分かる! なんでこんな大量の餅が……」
我が目を疑いたくなるのも無理はない。
普段は割と物が少ない部屋の半分近くに、大小さまざま、かろうじて包丁で切れるぐらいの塊の餅が、びっちりと積み上げられていたのだ。
あっけに取られている土方に、銀時がしみじみと話してくれた。
「正月明けにさ、かぶき町で"餅つき大会"があったんだよね〜」
飲み屋が多いノリなのか、かぶき町ではたびたびこのような催しで騒ぎが起きているのを聞いている。
明らかにソレがこの大量の餅の原因だろう。
「豪華賞品が出るっつーからもちろんみんなで参加して餅をついたんだけど、どうやって優勝を判定すんのかなって思ってたらおもむろに……"引き続き、餅争奪戦んんんん!"とか言い出しやがって」
争い、奪い、戦う。
とても"餅"の後に続く言葉とは思えないが、おおよその想像はついた。
「だけど豪華賞品のためだし、あくまで食いもんだから、落しちゃダメ、汚しちゃダメ、の過酷なルールにのっとって、他のヤツラの餅をすべて奪い取るため頑張ったよ万事屋さん。で、その結果の豪華賞品が……」
言われるまでもないが、銀時の指差したのが大量の餅だった。
豪華というか豪快というか。
土方は納得したが、銀時のほうは餅を見てうんざりした表情になる。
「餅は好きだけどさぁ……この量……毎日三食餅。しかも、ただいま絶賛お仕事募集中の万事屋には……醤油と砂糖しかないんですぅぅぅぅ!!!」
オーバーリアクションで絶望する銀時を見ながら、なるほど、と土方は思った。
さきほど頼まれた食材の数々は、"餅といえば"なメニューに必要な材料だったのだ。
大量の餅を美味しく頂くために味付けを変えたくなったようだが、その前に一つ疑問がある。
「……つーか、餅なら売ればいいんじゃねーか? 正月過ぎたからって餅なら需要があるだろうが」
割と名案のはずなのに、その言葉に銀時は微妙な顔をした。
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