原作設定(補完)
□その34
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#331
作成:2017/12/31
大晦日の昼前。
世間が休みに入るときほど休めない真選組は、ほとんどの隊士が会議室に揃って、大晦日の夜から正月の朝までの指示を待っていた。
今夜も寒いと予報が出ているので、できれば暖が取れる場所に配置されたいと願う隊士たちの元に、渋い顔をした局長と副長がやってくる。
本日の勤務配置について、朝から警察庁に呼ばれて戻ってきたところだ。
二人のその様子に、隊士たちは絶望的な顔をする。
きっと寒くて厳しくて寂しくて辛い場所に配置されてしまうんだと覚悟したのだが、伝えられた言葉は予想外だった。
「あー、今日の警備配置だが……」
言いにくそうな局長、しかめっ面の副長、息を飲む隊士たち。
ちょっと間を置いてから、近藤は隊士たちに頭を下げ、
「すまねぇ、今回俺たちの出動はねーんだ」
そう言った。
「……はい?……」
「今夜の重要警備配置はすべて見廻組に取られてしまったんだ」
「……えっと、それは……」
意味が分からないという表情の隊士たちに、ものごっさ悔しそうな顔で土方が怒鳴る。
「俺たちは外されたんだよ! あんのクソエリートがぁぁぁ」
どうやら向こうで見廻組に何か嫌味でも言われたのだろう。
江戸の年末年始の警備を毎年務めてきた真選組にとって、それをすべて見廻組に奪われることなど不名誉なことでしかない。
落ち込む局長、憤慨する副長、そして隊士たちは、
「……いやったぁぁぁぁぁぁ!!」
歓喜の声を上げたり、万歳をしたり。
隊士たちの喜びように近藤と土方はきょとんとしてから、我に返って怒り出す。
「お、お前ら何喜んでんだぁぁぁぁ!!」
「そうだぞ。警備から外されたってことはなぁ……」
「分かってます!寒い中、外で立ってなくて良いってことでしょう!」
「イチャイチャしてるカップルや、暖かいもの食べてる家族連れを羨ましがらずに済むってことですよ!!」
「……そうとも言うけど……」
「そうです!!」
隊士たちの力説に二人は納得させられてしまった。
悔しいという点を除けば、確かに大晦日から元旦にかけて、いつもの警備は必要だとしてものんびりできるということ。
良いことなのか?とまだ複雑な気持ちの近藤に、隊士たちはトドメを刺してくれる。
「局長だって、すまいるのカウントダウンパーティーに行って姐さんと一緒に飲めるじゃないですか!」
「すまいるのカウントダウンパーチー!?」
「……あ……す、すまねぇ、近藤さん……どうせ行けないから、あんたには知られないようにしてたんだ……」
思いがけずバレてしまった秘密事項に、土方が慌てて言い訳をした。
警備とはいえ年末年始の大事な場所に、ましてやキャバクラのカウントダウンパーティーなんかで、近藤を留守にさせるわけにはいかなかったのだ。
もちろん土方のその気持ちも迷惑をかけていることも分かっているので、それを怒るような近藤ではない。
「そうか……えっと、それじゃあ、今年は行っても……いいか、な?」
すでにワクワクしている近藤に対し、土方はホッとしながら笑う。
近藤が喜んでくれるなら、見廻組に仕事を取られた悔しさも消えてしまった。
「もちろんだ。後は俺にまかせて行ってくれ」
「まじですか! ありがとう、トシ!! じゃ、じゃあ、早速行ってくる!!」
準備をするためにぴゅーっと会議室を出て行った近藤を、温かく見送った土方に山崎が近寄ってくる。
「あの……副長もお休みになったほうがいいんじゃないですか」
「あ? 近藤さんがいねーのに、俺まで休むわけにはいかねーだろ」
「でも副長だって……万事屋の旦那と会ったほうがいいんでは……」
言いにくそうに山崎にそう言われ、土方は数日前のことを思い出して眉間にシワを寄せる。
年末年始に会う時間がちょーーーーっとでも取れないことを、銀時に責められて土方も言い返し、プチ喧嘩に発展していたことを。
山崎が心配してそれを言い出したのは、土方に銀時に対して"悪いな"と思う気持ちがあって気を落していたのを知っているからだった。
だが、近藤が、真選組が、最優先の土方には選択肢の中に銀時の名前はないのだ。
「それはもういいから気にすんな」
「でも……」
「警備はいつも通り。残りのヤツラは休んでもいいが、ハメを外しすぎないように注意しとけ。俺は副長室で仕事する」
「…………分かりました」
土方が頑固なのも知っている山崎は素直に引き下がる。
嘘も後悔もない。
それでも、部屋に戻ってから銀髪のモフモフを思い出して、切なげな溜め息が漏れる土方だった。
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