原作設定(補完)
□その33
4ページ/24ページ
それから数日、銀時はモヤモヤした気持ちで過ごした。
土方に会ったら、電話がかかってきたら、どんな顔をしていいのかとか、どんな顔をするのだろうかとか。
そんなことばかり考えてしまっていたが、土方からの連絡は無かった。
それどころか別なところから聞きたくない話が聞えてくる。
真選組は最近あの店にほぼ毎日出入りしていて、いつも土方が一緒だという。
『毎日って……多串くん、どんだけぇぇぇぇ!? そんなにムラムラしてるなら俺に言ってくれればいいのにぃぃぃ!!』
そんな冗談めかしたツッコミで自分を誤魔化そうとしてみたが、無理だった。
銀時はコソコソと吉原へ向かい、例の店の暖簾をくぐる。
銀時たちはこの吉原では顔の知れた立場にあるので、店の店長らしき人がすぐに声をかけてきた。
「あれ、万事屋さんじゃないですか。いらっしゃいませぇ」
「や、ちか……客じゃねーんだけど……」
「へ? じゃあお仕事ですか?」
不思議そうな顔で訊ねられたので、銀時は躊躇ってからストレートに聞いてみる。
「……えっと……最近……真選組が毎日来てるって聞いたんだけど……」
「ああ、はいはい。今日もいらしてますよ」
「今日も!?」
遊びに来るにはまだ早い時間かと思っていたのだが、どうやらすでに入店しているらしく、銀時は思わずあたりをキョロキョロしてしまうが姿はない。
「真選組がどうかしたんですか? ただ遊びに来てもらってるだけなんですが……」
「こ、この店は割りと高いんだろ!? 公務員が毎日出入りなんてとんだ税金泥棒だよなぁぁぁ!」
コソコソしている後ろめたさから声が大きくなる銀時に、店長は営業スマイルで答えてくる。
「いやぁ、うちは可愛いくてテクニシャンを揃えてますからねぇ。みなさんに満足してもらってますよぉ」
「そ、そうなの?」
「はい。おかげで常連になってくれる方がいっぱいいますよ」
「おおぐ…………ひ、土方くんも?」
「土方? ああ、真選組の副長さんですか。もちろん、彼には店で一番の子をつけましたからね! 気に入っていただけたようで、毎日ご指名していただいてますよ」
確信的なことを聞いてしまい、自分で探りにきたくせに銀時はショックを受けていた。
店一番の子の手練手管にかかれば、あのストイックな土方だってメロメロになるらしい。
同時に虚しさが込み上げてきて、もう帰ろうかと思ったときフロアが騒がしくなってきた。
「またきっといらしてくださいねぇ」
「うん!また給料が出たらきっと来るよ!」
「約束ですよぉ」
キャッキャウフフと会話する男女がずらずらと出てきて、それが真選組の連中だということにすぐ気付けなかった。
銀時がぼんやりしていると、集団の最後に見慣れた、見たくない姿を発見する。
数名の美女と優しげな表情で会話する土方を見つけて、ようやくマズイと我に返るが時既に遅し。
銀時の姿を見てにこやかだった土方の顔が一辺する。
「……てめー、ここで何やってんだ」
明らかに怒っているがそれは銀時が言いたいセリフで、土方が怒るのは完全な逆ギレだ。
さっきまでのもやもやが吹っ飛んで銀時も言い返そうとしたのだが、
「はあ?多串くんこそなにし……」
「副長〜? どうしたんですかぁ?」
先に店を出ていた隊士がひょっこり顔を出す。
土方は小さく溜め息をついて、
「先に帰ってろ。寄り道して羽目はずすなよ」
「やだなぁ。俺たち子供じゃないっすよ!」
元気に言い返されるが、だから心配なんだろうが、という顔を土方はしている。
隊士たちがガヤガヤと帰っていく声が聞えて、さて仕切りなおしだと思ったとき、また邪魔が入った。
「土方さぁん、忘れ物ですよ」
2階からてとてとと可愛らしく降りてきたのは、他の女たちとは服装も容姿もステイタスも一味違うという感じのする女。
さきほど店長が言っていた"店一番の子"だろう。
銀時が嫉妬するというレベルじゃなく、人目で敗北感を味わわされた。
だが、その女は土方のところまでやってくると、持っていた武骨な荷物を手渡す。
「お仕事の道具、お忘れですよ」
「……ああ、すまねー」
「いいえ。でも次こそはコレなしでいらしてくださいね」
「…そうだな」
「きっとですよ」
土方が社交辞令的な愛想笑いを浮かべて返した言葉にも、女はプロの根性でにっこりと笑う。
荷物を受け取った土方は、情けない気持ちで落ち込んでいる銀時の腕を掴み、
「来い」
そう言って店の外まで引っ張って行く。
十数歩そのまま歩いて手を離し、煙草を取り出すと火を点けて一服するのを銀時は待った。
.