原作設定(補完)
□その33
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#322
作成:2017/11/21
「じゃあ、僕たちはこれで。ありがとうございました」
「こちらこそ。またよろしく頼むね」
「万事屋銀ちゃんにどんとまかせるネ!ツッキーによろしくアル!」
元気に日輪に挨拶をして三人はほくほく顔で店を出た。
急な依頼ではあったが吉原の仕事は割と楽で、なによりも報酬が良い。
「良かったぁ。これでしばらくご飯の心配はないですね」
「"ごはんですよ"買うアル!」
「お徳用を買ってあげるよ」
「きゃほぉぉぉぅ!」
「お前ら……もうちょっと気前の良い話はできねーのか」
「気前の良い話って何アルか?」
「…………た、食べ放題とか……」
「…………いいですよ、ソフトクリームがにゅい〜ん出てくるところで良ければ」
「な、なんだ、その"しみったれた気前の良い話は"ってツラはっ!!」
いまいちカッコ良い大人っぽいことが言えない銀時に、二人は諦めたような溜め息をつく。
それでも懐が暖かいのでうきうきしながら帰ろうとして、神楽が気が付いて声を上げる。
「定春忘れてきたアル!!」
「え? あれ? ホントだ」
仕事には連れて行けそうになかったので晴太のところに預けていたのだが、引き取ってくるのを忘れていたのだ。
「なぁにやってんですか」
「ちょっと行ってくるアル!」
「あ、神楽ちゃん、僕も行くよ!」
場所が場所だけに女の子一人で歩かせるのは、目に毒というか教育によろしくないと言うか。
新八が神楽を追っかけて行ったので、銀時は面倒くさいのでその場で待つことにした。
頭の中は今日の晩ご飯のこととか、しばらくはおやつに甘味を食えるかもしれないとか。
そんなことを考えていたら聞き覚えのある声が聞えてきた。
「副長!早く早く!」
「……お前ら、はしゃぎすぎだ……」
「だってこんな良い店来るの初めてなんすよ!!」
隊服こそ着ていなかったが見知った顔が5、6人、さっきの銀時たちと同じぐらい浮ついた顔で歩いていた。
真選組の隊士たちだと気付いて、銀時は咄嗟に身を隠し彼らの姿を見送る。
彼らが向かって行って店は、解放後に自由奔放になった店が多い中、昔ながらの商売を続けている店だった。
つまりは女を買う店であり、割と高級なランクの店の一つ。
真選組はああみえて高給取りだし、こういう店に出入りすることもあるだろう。
それに対して何も思わないし、相手が近藤だったらむしろ声をかけてからかいもした。
だが若い隊士たちを連れて一緒に店に入って行ったのは土方だった。
『……若い連中を連れて来た……って感じだけど……それだけってことはねーわな……』
酒も女もサービスも一流の店で、何もしないで出てこれるわけがない。
かぶき町で長いこと暮らしているおかげで、そのへんの事情には詳しくなった。
ズキズキと胸が痛む理由を知っている。
土方と酒を飲んだり食事をしたり、肌を重ねるようになったりしてもう一年になる。
甘い愛の言葉もないし、付き合おうなんて契りの言葉もない。
だけど土方は自分のモノだと思っていたし、そう思われていると思っていた。
少なくとも銀時に他の誰かとヤろうという気持ちは無いのだが、土方はそうじゃなかったようだ。
「…………仕方ねーか……」
納得してないのに納得したフリをして銀時は深い溜め息を一つつき、
「あれ? 銀さ〜ん?」
「……おう」
自分を探す新八の声が聞えてきたので、隠れていた建物の陰から出て万事屋で戻るのだった。
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