原作設定(補完)

□その33
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「それがさぁ、まんざらでもないと思うんだよね」

「……な、なにがだ……」

「神楽? 割りと土方くんのこと嫌いじゃねーと思うよ?」

「…………だ、だから?」

「だから、プロポーズなんかしたらOKされる可能性が……」

「はあ?」

今度ばかりはかけらも納得することができない。

いつも自分の顔をみるたびに小憎たらしいことばかりいってくる、小憎たらしい顔が目に浮かぶ。

「あるわけねーだろ。あのチャイナだぞ?」

「言いたいことはわかるよ。たださ、消去法で……」

銀時が説明してくれようとしたとき、玄関の扉が開く音がして元気な声が飛び込んでくる。

「銀ちゃーん、だだいまアル〜!」

「ただい……あ、神楽ちゃん、お客さんみたいだよ。静かにね」

どうやら外出していた新八と神楽が帰ってきたようだ。

話の内容が内容だけに硬直する土方に、銀時はかまわず呑気な声で返事をする。

「おう、お帰りぃ」

「あ、客ってトッシーアルか。じゃあ客じゃないアル」

中に入ってきた神楽が土方の姿を見るなり、期待ハズレという顔をした。

『やっぱりねーだろ』

さきほどの銀時の言葉を到底理解できないような顔だ。

土方がそう思っているのを察して、銀時が苦笑しながら言った。

「でも土方くん、お土産持参だよ」

「まじでか! 新八、お客さまにお茶をお出しするアル」

「はいはい」

態度の急に変わった神楽に、慣れっこの銀時と新八にはそんなところが神楽らしいと微笑ましく思っているのかもしれないが、土方にはそれが分からない。

おまけに団子を両手に持って口の周りをみたらしまみれにしているところは女らしさの欠片もないし、実物を見ていたらフラれるのが目的とはいえプロポーズするのを躊躇われる姿だ。

納得できないような土方に、何も知らない新八がお茶を差し出しながら聞いた。

「それで、今日は何の御用でいらしたんですか?」

「え……あ、それは……」

今度こそ新八相手だったのに、本当の目的が銀時にバレているので一瞬迷ったら、変わりに銀時が答えてくれる。

「このあいだの見合いのお詫びだってよ」

「え? ああ……でもあれは、どっちかっていうとかわいそうなのは山崎さんだったような」

自分たちが帰ったあとに何があったのかをたまに聞いていた新八は、申し訳なさそうに、でも半笑いだった。

「ジミーなんてどうでも良いアル。たまにだって選ぶ権利があるネ」

からくり相手にそこまで言われるなんて、山崎を気の毒に思ったり仕方がないかと思ったり。

そんな土方をチラリと見てから、銀時は急に例の話を神楽に振る。

「神楽。じゃあ、おめーだったら誰が良いんだよ」

「私はカーネルが良いアル。チキンの皮、食べ放題ネ」

銀時の唐突さに驚いた土方だったが、神楽の答えにも驚かされた。

色気より食い気な年頃なのだ。

「まだそんなこと言ってんの、神楽ちゃん」

「なんだそりゃ。んー……じゃあ、この三人の中では?」

食い下がる銀時の問いに、三人の顔を見比べた神楽の答えは即答だった。

「トッシーが良いアル」

「!?」

選択範囲は極々狭いとはいえ銀時の言っていたとおりの答えになって、土方はぎょっとする。

「即答かよ。ちょっとぐらい悩もうよ」

「警察なんだから安定職ネ」

「でもチンピラですよ?」

「給料も払えないようなブラック企業よりマシアル」

「ふーん……だってよ、土方くん」

銀時がにいっと笑って『ほらね』という顔をしているので、反論したくなった。

「……この三人の中なら、当然だろうが」

「うわ、失礼しちゃわね! ……だったら、神楽。お前が今まで会った男の中でだったら誰が良いんだ?」

先ほどと比べるとだいぶ選択範囲が広がった。

さすがに今度は即答とはいかず神楽もしばらく考えていたが、それでも出した答えは、

「うーん……やっぱりトッシーで良いネ」

"で"ってなんだ、と思いながらも再度選ばれてしまったことに、土方は複雑な心境だった。

「え……神楽ちゃん、もしかして本当に土方さんのこと……」

「誰かっていうから選んだだけアル。これからまだまだ良い男が現われるから、期待しないでよね!」

「……してねーよ」

いきなりツンデレキャラになった神楽に、土方は素っ気なく言い返す。

プロポーズしようと思っていた立場としては、何も言ってないのにフラれたような気分だった。

そのつもりだったのに男心とは複雑なものだ。

土方の反応に神楽は楽しそうに笑ってから、団子を一気に食べつくすと、

「ごちそうさまアル!」

そう言って立ち上がる。

「えっ!? おまっ、何、全部食ってんだぁぁぁ!!」

「ボヤボヤしてるほうが悪いアル。腹ごなしに定春と散歩に行って来るネ」

「あ、じゃあ僕も、他に何もないようだから帰りますね」

「……おつかれさん……」

しょんぼりした声で返事をしながら、銀時は神楽の残した団子の残骸をうらめしそうに見ている。


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