原作設定(補完)
□その33
20ページ/24ページ
「……チャイナなら、てめーのほうが似合いだろうが」
「そうかもしれねーですけど……俺がチャイナと結婚したら大変なことになるんじゃねーですかぃ」
想像してみた。
土方にとって憎たらしい存在が二人、タッグを組んで自分を苛めることを。
それはそれはきっと恐ろしいものになるに違いなく、
「…………分かった、俺がいく」
土方は諦めたようにそう言って、支度をするために会議室を出た。
近藤が慌てて追いかけてきて心配そうに声をかける。
「トシ、大丈夫か? やっぱり俺がお妙さんと……」
「近藤さん、大丈夫だよ。まかせてくれ」
食い気味に近藤の言葉を遮ると、安心させるように土方は笑う。
近藤の気持ちは嬉しいのだが、土方も近藤の提案に希望があるとは思えないし、あせった近藤がお妙に酷い目に合わされるのも見たくない。
それに土方には考えがあった。
部屋に戻って私服に着替えながら、
『別にチャイナと結婚する努力をする必要はねーんだよな。チャイナにフラれりゃいいんだろ』
そう結論に達したのだ。
そもそも沖田の狙いは本当に万事屋と縁者になることじゃない。
山崎に恩を売って頭が上がらなくさせたり、土方に恥をかかせて面白がりたいだけなのだ。
その思惑に乗ってやるのは不満ではあるが、あえてそれに乗ってやるのが大人の対応ってものだろう。
土方がその覚悟をしているとも知らず、神楽にフラれた土方をあざ笑う沖田。
その姿を想像すると、いつもしてやられている土方としては少し気が晴れた。
支度をした後、屯所を出て万事屋に向かう。
その途中で手土産として酢昆布と、ついでに団子も大量に買った。
スナックお登勢の前まで来てから万事屋を見上げ、ふんと猛る息をつく。
いままで有象無象を相手に口八丁手八丁で乗り切ってきた"フォロ方十四フォロー"の力を発揮してやろうと気合いをいれるのだった。
が、土方の気合いは出鼻から挫かれてしまう。
「はいはい、万事屋銀ちゃ…………あ? チンピラ警察がこんな場末のなんでも屋に何の用ですか」
チャイムを鳴らして出てきたのは予想外に銀時だった。
雑用は新八に全部まかせて自分は部屋でゴロゴロしてるだけかと思っていたので、客の応対に出て来るとは思わなかったのだ。
顔を見るなり卑屈たっぷりで憎たらしいことを言われ、さすが沖田とコンビを組めて神楽の保護者になれるだけある。
いつもだったら悪態に応酬して喧嘩になるのだが、今日はそんなことをしている場合じゃないので土方はグッと我慢した。
言い訳はちゃんと用意してある。
「……先日の見合いの件で、近藤さんに礼とお詫びをしてこいって言われたんだよ」
相手が新八だったらもっと素直に信じてくれただろうが、あいにく銀時なので慎重に落ち着いて言った。
「ふーん……手土産持参? じゃあ、上がれば?」
銀時の相変わらずやる気のない表情で、土方が手に持っている甘い匂いに気付いてそう言って先に中に戻って行く。
きっと土産がなかったらそのまま追い返されていたんだろうな、と思いながら土方も後に続いた。
どうやら新八も神楽も居ないらしく、銀時がソファでダラダラしながらジャンプを読んでいた形跡がある。
「何か飲む? 茶と……いちご牛乳しかねーけど」
自分が直接口をつけて飲んでいたであろう紙パックのいちご牛乳を勧められて、土方は嫌な顔をしそうになるのを今度もグッと我慢する。
「……おかまいなく」
「あ、そ。じゃ、座れば」
この態度を見れば客として応対する気がないのが分かるが、わざわざ来た目的ぐらいは達成しないと帰れない。
ぜんは急げと出てきたが何も今日"神楽にフラれ"に来たわけじゃなかった。
どう行動すれば上手くフラれることができるか確認しに来たのだ。
それを探るためにも本当は新八相手のほうがやりやすかったのだが、今更引き返すこともできない。
先にソファに座った銀時の向かいに座り、土方は土産をテーブルの上に置く。
銀時は早速それを開けて、山盛りの団子に嬉しそうな顔をしてから1本を口に咥えた。
土方は、神楽の好物の酢昆布以外にも何か買って行こうと考えたとき、団子をチョイスした理由に気付く。
銀時には団子屋で遭遇することが多く、いつもそれを美味そうに食っていた。
だから"万事屋への土産は団子が良いだろう"とインプットされていたのかもしれない。
が、銀時の機嫌が良くなれば神楽のことを探る質問もしやすくなったな、という土方の考えは甘かったことを知る。
一本食べ終えて次の団子を手にとった銀時が、
「で? 何を企んでんの?」
土方の内心をあざ笑うかのようにしらっとした口調でそう言った。
不意と確信を突かれた問いかけに、土方は不覚にも動揺してしまう。
「な、ななな、なに……何をって、何が……」
「いや、それじゃ何も誤魔化せないから」
どうやら銀時には最初から疑われていたらしく、バレバレにドモる土方に動じた様子がない。
.