原作設定(補完)
□その33
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#329
作成:2017/12/19
「それじゃあ、土方さん。お願いしやすね」
にやりと笑った沖田にそう言われ、土方は苦々しい顔で手の中の棒を握り締める。
"あたり"と書かれたその棒は、ある目的のための人選をするために用意されたものだった。
「……ど、どーしてもやらなきゃいけねーことなのか、それは……」
「あらら。今更そこを話し合うんですかぃ」
「……副長、すみません。俺がたまさんとの見合いを失敗したばっかりに……」
隣でしょんぼりしながら謝罪する山崎の傷口に塩を擦り込むような真似はしたくないが、あの見合いの失敗の煽りが自分に向くとは思っていなかった。
事の発端はまたしても沖田の提案。
何かと真選組と因縁があり得体も知れずトラブルの多い万事屋と、何故か縁者になろうと沖田に企まれた先日の見合い。
あのメンツでは当然上手くいくはずもなく、山崎に心の傷と甘酸っぱい思い出を刻んで終了するはずだった。
が、沖田はまだ諦めていなかったらしく、
「じゃあ、次は誰を結婚させやしょうか」
などと言い出したのだ。
もちろん土方は断固反対したのだが、ノリノリでその提案に乗ったのが近藤だった。
「あぁ?バカなこと言ってんじゃねー、もうアレはアレでしめー……」
「はいはいはーい!!今度こそ、俺がお妙さんと結婚しまっす!!」
しかし近藤以外の誰もが、それをなし得るのは無理だろうと思っている。
「近藤さん……いつですか?」
「え?」
「いつ結婚してくれるんですかぃ」
「……え、えっとぉ、早急に正式にプロポーズをしてですね……」
「ダメですぜ。女ってのは、そういう裏があるプロポーズにはなびかなねぇもんだ。近藤さんはもっとゆっくり時間をかけて愛を育んだほうがいいんじゃねーでかぃ」
「そ、そっか、そうだよね!」
沖田がいつになく優しげな提案で近藤を説得するが、どうやら見込みの無い近藤には引っ込んでいて欲しいらしい。
恋愛のれの字も興味がないような沖田に言い包められる近藤もどうなんだ、と土方は頭が痛くなった。
「じゃあ、くじびきにしやしょう」
「……何を……」
「全員で見合いするわけにはいかねーんだから、誰か一人に決めねーと……」
言いながら沖田が取り出したお手製のくじに、異議申し立てをしたのは土方だった。
「ちょっと待てぇぇぇぇ!!それを見せろ!」
「なんでぃ、土方さん。そんなに焦らねーでも、あんたに最初に引かせてやりまさぁ」
「いいから貸せ!!」
沖田の手から奪いとったくじには、全部"あたり"と書かれていた。
「……どういうことだコラァ」
「"土方さんに所帯を持ってもらって幸せになって欲しいと願う俺の愛情"くじでさぁ」
「長ぇぇぇぇ!!それに嘘だろ!!俺にやらせて笑いもんにしようって腹だろうがコラァ!!」
「分かってるんだった手間がはぶけまさぁ。じゃあ、土方さん、お願いしやす」
「誰がそんな手に乗るかぁぁ!!」
「じゃあどうしたいんですかぃ」
「……くじは俺が作る!!」
そう言って仕切りなおしたくじ引きの結果が冒頭である。
自分でくじを作り、念のために"残り物には福がある"を願って最後に残ったものには"あたり"が書かれていた。
意義を唱えようにも、文句の言いようがない。
にやにやしている沖田の顔を見ていると、それでもなにか小細工されたんじゃないかと考えてしまうが、手口を見破れなければ攻めることはできないのだ。
土方が諦めたような溜め息をついたので、沖田は楽しそうに言った。
「それじゃあ、頑張ってチャイナ娘をオトしてくだせぇ」
「!!? な、なんでチャイナだっ」
「え? 他に誰かオトせそうなヤツが居るんですかぃ?」
問われて土方は考える。
万事屋の身内的女性陣の仲で、適当な女はお妙しかいない。
が、そこを選んでしまうと近藤に泣かれ、恨まれ、一生口をきいてもらえなくなる。
お登勢とキャサリンは論外。
たまは見かけも性格も、他の連中と比べれば申し分なかったが、なにせカラクリなのだから結婚なんて無理な話だ。
よくよく考えれば、「だったら山崎との見合いも無意味だったんじゃね?なのにその失敗をやり直すなんておかしくね?」と思えるが、今更それを言い出しても無かったことにはならないだろう。
そうなると神楽しか居ないのは確かなのだが、今までに接してきたときの毒舌の憎たらしさを思うといまいちその気になれない。
ふと思いついたことを、ムダだと思いながらも言ってみた。
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