原作設定(補完)

□その32
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「副長……マジで旦那のことを……」

山崎が恐る恐る確認しようとしたとき、朝っぱらから暑苦しい声が廊下から近付いてきた。

「お? どうした総悟、何やってるんだ? トシ起きてるか…………って、万事屋?」

どうやら土方に会いに来たらしい近藤は部屋を覗き込んで、居るはずのない銀時の姿を見つけて当然驚く。

沖田の悪巧みの前では冷静でいられない土方も、近藤の姿を見た途端落ち着いた。

この場を切り抜ける手段を思いついて布団から立ち上がる。

「よ、よう、ゴ、ゴリさん。実は昨日酔っ払ってるとこを土方くんに拾われてさぁ、一晩世話になっちゃったんだよねー」

頑張って銀時の軽口を真似して彼のフリをしてみたのだ。

「ああ、そうなのか?」

「うん。じゃあ、俺はお暇するから土方くんにありがとうって言っといてよ」

「分かった……っていうか、トシはどうした?」

近藤はあっさり信用してくれたようだが、変わりに居ない土方のことを追及される前に、土方は逃げることにした。

通りすがりに沖田の手からスプレーを取り上げて部屋を出て行く土方を、沖田は珍しく黙って見送る。

「なるほど」

そう呟いたのは山崎で、沖田は携帯を操作してさきほど撮りまくった画像を見た。

そこには驚いている銀時や、赤面している銀時が映っている。

「……旦那が映ってる"だけ"ですね」

一緒に携帯を覗き込んでいた山崎がそうつぶやくと、沖田は不機嫌そうな顔で舌打ちをした。

土方の弱みを握るつもりで撮った写真だが、これを見ても誰も"土方の秘めた想い"を想像できる者はいない。

「どうした?」

近藤がきょとんとした顔をしているので、沖田は小さく肩をすくめて携帯を閉じた。




屯所を飛び出した土方が近くの公園に辿り着いたとき、"土方"に戻っていた。

スプレー缶を見ると"効果は1時間"と書かれていて、どうやらタイミング良く効果が切れたようだ。

ベンチに座ってホッと一息つきながら、近藤は上手く誤魔化せたし、沖田も写真が証拠にならないと気付いたことだろうと考える。

だが沖田に知られてしまったのは事実で、これから追撃は激しくなるだろうと想像するだけで疲れた。

最悪、他の誰に知られてもまだかまわない。

一番怖いのは銀時本人に知られてしまうことだ。

だが沖田がそれを思いつかないはずもなく、「旦那が知ったら驚くだろうなぁ」的なことを言われて脅迫されるに違いない。

土方は大きな溜め息をついた。

『いっそのことアイツに告っちまえば……』

そんなことを考えて、自分で嘲笑する。

気持ちを打ち明けたところで想いが叶うはずもなく、その後は気まずくて顔も見れなくなるだろう。

フラれるぐらいなら口喧嘩だけでもできる現状維持で良い、なんて殊勝なことを思っているわけじゃない。

だけど今は一歩を踏み出す勇気は持てなかった。

『……せめてアイツの気持ちが少しでも分かれば…………あ……』

臆病な自分を助けてくれるアイテムが手の中にあることに気付いて、土方はごくりと唾を飲み込んだ。

沖田が使った手を真似すれば銀時の気持ちを知ることができるんじゃないか。

よりにもよって沖田の真似をしようなんて、自分がされて嫌だったことをやろうだなんて。

自己嫌悪に陥りながらも土方は手の中のスプレー缶をぎゅっと握り締めた。


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