原作設定(補完)

□その32
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催眠術にビクビクしていたことや、銀時をずっと好きだったことや、間抜けにも本人に知られてしまったこと。

極短時間のことなのに、沖田に知られてはマズイ情報ばかり。

土方はぐっと唇を固く結んで、銀時をにらみながらみかんの置いてある場所に座った。

もちろんみかんを食べる気にはなれなかったのだが、

「旨いよ、みかん」

「……いらねー」

「……沖田く……」

なんて脅迫するので舌打ちしてみかんを手に取った。

柑橘系はあまり好きじゃないのだが、銀時がじっと見つめているのでしぶしぶ皮を剥いて一欠片を口に放り込む。

この時期のみかんにしてはかなり甘くて、旨いな、なんて思ってたら銀時がとんでもないことを言い出した。

「多串くん、あーん」

そして口を開けた間抜け面を土方の方に向けている。

土方の知識で言えば「みかんを口に入れてね」というポーズだ。

「な、なにしてんだてめー」

「だからぁ、ほら、あーん」

みかんを丸ごと突っ込んでやろうかと思えるほど憎たらしい顔だった。

「……誰がするかっ」

「あれぇ、俺のこと好きなんじゃねーの?ホントに好きならあーんぐらいできんじゃねーのかなぁ。あ、ホンキじゃねーんだな。そうだよね、多串くんが俺なんか好きになるわけないよねぇ」

呆れたような声でそう言った銀時に、土方は歯をくいしばって殴りたくなるのを堪えた。

“好き”だということを疑われても仕方ないと思うが、面白がられるのはムカつくし悲しい。

眉間にシワを寄せながら土方はみかんを一つ手に取って銀時に差し出したが、

「そんな顔であーんってされても、銀さんテンション下がるぅぅぅ」

なんてことを言いやがるので、土方は今度こそみかんをぶつけて帰りたくなった。

が、続けて銀時はさらにふざけたことを言い出す。

「ちゃんと可愛くあーんてできたら付き合ってあげてもいいのになぁ」

土方には絶対に出来ないと思っている上に、土方の気持ちを踏みにじるような言葉だ。

ふざけんなと怒って帰ってもいいぐらいの暴言だったし、もしかしたら銀時はそのつもりで言ったのかもしれない。

しかし土方には負けず嫌いな面もあった。

それに腸が煮えくり返るような腹立たしいことを言われても笑顔で交わす、なんて、幕府のお偉方相手や沖田相手にいくらでもやってきた。

むしろ得意技と言っても良いぐらいに。

土方はみかんを一つつまんで、無表情で銀時の口許に運ぶ。

「はい、あーん」

「………あーん」

銀時が口を開けたので口の中に入れてやり、もぐもぐと噛んで飲み込むのを見届けてから、

「旨いか?」

「……うん」

「良かった」

にっこりと満面の笑みを浮かべてやった。

銀時がきょとんとした顔をしているから、驚かせることには成功したらしい。

土方は立ち上がってコロッと表情を変え銀時を睨み付けると、

「これで良いかテメー!! 言ったことはちゃんと守れよコラァァ!!!」

そう叫んで今度こそ万事屋を飛び出した。

乱暴な足取りで地面を蹴って歩きながら、

『あの腐れ天パー!!マジで惚れさせてやるからな、覚悟しとけコノヤロー!!!』

怒号の決意表明をする土方だった。



残された銀時は足音が完全に聞こえなくなってからようやく動きだし、土方の残ったみかんを口に放り込んでくすくすと笑い出す。

「やっぱ面白いわ、多串くん」

顔を合わせれば喧嘩ばかりの土方が、それでも銀時をかかわり合おうとすることを銀時は気付いていた。

まあ、まさかそういう意味で好かれているとまでは想像してなかったが、それを知っても嫌な気分じゃない自分もいて。

これからどうなるかは分からない。

が、次に会ったときどんな顔をするのか、楽しみな銀時だった。


 おわり



本当にオチをどうするか全然決めてなかったので、
まあなんとかこういうオチに持ち込んで、まあいいかと思ってます。


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