原作設定(補完)
□その32
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万事屋の階段を軽い足取りで上がってきたあと、
「ただいま帰りましたよ〜っと」
そう言いながら玄関の扉を開けた銀時は、家の中に一歩踏み込むと同時に険しい顔になった。
それからドタドタと急いで部屋に飛び込んでくる。
「多串くんが来たのかっ!!!?」
玄関に靴が無いことを確認した上で、のんびりソファでくつろいでいた神楽に問いかけた。
神楽が怪訝そうな視線を向ける。
「……なんでニコ中が居た分かったアルか」
「匂いが残ってるだろうがっ!!」
自信満々にそう言った銀時に、神楽は念のためにくんくんと匂いをかいだ。
だが土方はここで煙草を吸わなかったし、もちろんマヨも吸ってない。
なのに匂いで分かったという銀時に、うら若き乙女の神楽が、
「…………銀ちゃん、キモイアル」
と正直な意見を述べても仕方ない。
そんなことは言い慣れている銀時が怯みもせず、回答を求めているので仕方なく答えてやった。
「さっきまで居たアル」
「なんで!!?」
「休みだから寄ってみた言ってたネ」
「なんで引止めとかないんですかコノヤロー!!」
「頼まれてないアル」
「おまっ、俺がどんだけ多串くんに会ってないと思ってんですか!!」
「知らないネ」
「ちゃんと会えたのが27日と6時間前!声を聞いたのが5日と9時間前!匂いを嗅いだのは12日と2時間前ですぅぅぅ!!!」
銀時の熱い叫びに、神楽は眉間にシワを寄せて開いた口が塞がらないという顔をしている。
日付はともかく時間まで覚えている銀時が怖かった。
「気持ち悪い。私に近付かないで」
「標準語になってますけどぉぉ!!?」
神楽の毒舌はいつものこととはいえ、あからさまに嫌悪されるとショックではある。
不貞腐れる銀時に、神楽は素朴な疑問をしてきた。
「なんでそんなになるまで我慢するアルか。付き合ってるなら会えば良いネ」
普段の銀時はもっとやりたいことやりたくないことをはっきり言うし、そうしているのを見ているだけに、神楽には不思議に思えた。
銀時はそんな直球な質問に、さすがに気恥ずかしいのか素っ気無く答えてみたが、
「大人はそんな簡単にはいかないものじゃないんですぅぅ」
「大人なら子供に心配かけんじゃねーよ」
「ぐっ」
正論で返されてしまった。
「…………俺はいいんだよ。多串くんが仕事に集中できるように我慢するぐれーなんてことねーし」
「銀ちゃんも"我慢する"とか出来るアルな」
「俺をなんだと思ってんの? 俺だって"我慢我慢我慢"って心の中で一万回ぐらい唱えれば我慢できるからね」
「……そんなこと考えてるから笑えなくなったアルか」
土方が言っていた銀時らしくない原因がつかめて、神楽は呆れたような溜め息をつく。
銀時なりに土方のことを考えているらしいが、全くの逆効果だったというわけだ。
『ホントに呆れた大人たちアル』
と神楽に思われていることを銀時は知らない。
「あ?笑う?」
「…………今日は休み言ってたネ。追いかければまだ間に合うんじゃないアルか?」
「!! そうか!まだその辺に居るかも!」
すぐに部屋を出て行こうとする銀時を、神楽が引き止める。
「着替えぐらいして行けヨ。銀ちゃん、昨日の夜からの仕事だったネ」
銀時は言われて足を止めた。
普段ならそんなこと気にしないのだが、このあと土方を発見できてうまくデートに持ちこめたとしたら汗臭いのは嫌かな、なんて考えてしまったのだ。
「そ、そうだな。じゃあ、急いで着替えて……」
さっさと着替えだけしてしまおうと和室の襖を開けた銀時は、そのまま動けなくなった。
視線の先には、恥ずかしいような気まずいような怒っているような、なんとも言えない表情をした土方が真っ赤な顔で正座していたからだ。
「…………」
「…………」
銀時はすーっと襖を閉じた。
『何閉めてんだ』と普段ならツッコミをいれる土方も、今回ばかりはそうしてくれたほうが助かる。
「お、お、おまっ、な、ななな、なんで多串くんがっ」
してやったり顔の神楽に小声で問い詰めたら、
「帰ったとは言ってないアル」
なんて返されてしまった。
どうやら何か理由があってワザとそうしたんだと勘付いた銀時だが、さっきぶっちゃけてしまった本音を土方に聞かれていたことが気になって神楽に文句は言えそうにない。
アワアワしている銀時に対して神楽のほうが冷静だった。
「出かけてくるアル。銀ちゃんもニコ中も、もっと素直になるヨロシ」
至極もっともなアドバスをして部屋を出て行った神楽に、銀時も、聞えていた土方も自分の情けなさに悶絶する。
しばらくの間、閉じられた襖を挟んで葛藤していた二人は、気持ちを落ち着かせ、襖の向こうを気にし、大きく溜め息をついてから襖を開ける決心をするのだった。
おわり
あれ?会わずに終わっちゃったな。ま、いいか(笑)
誕生日に出番の無かった神楽が、今回は出ずっぱりでした。
うちの銀土ではありがちで何度も繰り返しているネタを、
シチュエーションを変えて書いた、というだけの話でした(笑)
やっぱり銀土に神楽とか新八が係わると、ほのぼのして楽しいなぁ。