原作設定(補完)

□その32
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それから土方は、数日は仕事があまり手につかず、

「気晴らしに見回りでも行ってこい。な」

なんて近藤に言われてしまったりする。

土方の不調を面白がる沖田と一緒に出てきたはずなのに、ぼんやりとついつい足を向けてしまった団子屋の前で銀時に会った時、

「土方くんじゃん、一人なんてめずらしーね」

と声をかけられて、ようやく沖田が居なくなっていることに気付いた。

だが土方はそれどころじゃなく、まだしばらく会いたくないと思っていた銀時に会ってしまったことに動揺する。

「土方くん? どうした?」

返事をしないでいたら銀時にもう一度名前を呼ばれて、何か言わなくてはと視線を向けてさらに言葉を無くす。

銀時は頭や腕や足に包帯、顔にいくつもの絆創膏を貼った痛々しい姿になっていた。

「て、てめーこそどうしたんだ、そのなりは」

いつもいろんなトラブルに巻き込まれては怪我を負っている銀時だったが、今回は面白くないような表情をしている。

「あー………仕事の依頼の礼だって吉原で飲んだんだけどさー……凶悪な酒乱に巻き込まれちまって」

どうやらまた飲んでいたらしいが、酔っ払い相手にこんな怪我を負うなんて銀時らしくないとも思えた。

が、どうやら相手は女だったので反撃できなかったらしい。

「ったく……あれのどこが太夫だっての……あ、太夫だけど死神でもあった……」

ぼやいた銀時が言った"死神太夫"とは資料によれば月詠のはずだ。

そんな欠点ぐらい銀時なら許せるんじゃないかと想像していた土方に対し、銀時は実に不服そうな顔をしている。

これもまた好きな人を思い出している顔じゃない。

土方は呟くように訊ねた。

「……嫌なのか?」

「はあ?こんな目に合って嬉しいなんて、俺はどんなドMですか!!」

きっぱりと答えた銀時に、土方はまた分からなくなってしまった。

どうやら月詠も銀時の好きな相手じゃなかったようだ。

ホッとしながらも、また胸は落ち着かなくなる。




結局土方はそれからも数日万事屋に足を運ぶことになった。

何故か毎晩銀時が酔っているせいで一度も見つかることなくスプレーを使うことが出来たが、思ったような結果が得られなかったからだ。

銀時が変身するものといったら、新八、神楽、定春。

桂に変身したときは、このまましょっ引いてやろうかと思ったぐらいムカついた。

それと同時に虚しくなってきて、自分が変身したときに山崎が言っていたことを思い出す。

『……夢に見たからって好きだってことにならないかもしれない……か……』

沖田に唆されてその気になってしまったが、しょせんは子供のおもちゃみたいな代物だ。

こんなもので銀時の気持ちを確認しようと思ったのが浅はかだった、とようやく、というか改めて思った。

今日で終わりにしようと何も期待せずに銀時にスプレーを使ったら、銀時の姿はすぐに変わり、布団の上で寝ているのは紛れもなく自分だった。

「!?」

寝相悪くグーグー寝ている隊服姿の自分に、土方は息を飲む。

期待しないと、期待するほうがおかしいと思ったのに、銀時の夢の中に自分がいると思うと胸が高鳴った。

それでも割と冷静になるのは早く、どうせ喧嘩しているときの夢でも見ているのだろうと想像する。

険しい顔はしていなかったけれど、何かブツブツ文句を言っているようだった。

何を言っているのだろうとそーっと顔を近づけたとき、寝ていた自分……銀時がぱっちりと目を開けた。

しまった、と思ったが咄嗟のことで言い訳が出てこない。

なんでここに土方が居るのかと嫌な顔をされる、と土方はショックを受けるだろう自分に身構えたのだが、銀時は裏腹ににっこりと笑った。

もちろん実際に笑っているのは"土方"なので複雑な気分だったが。

それから銀時は土方の腕を掴み、

「まだ帰ってなかったの? しょーがねーなぁ、銀さんが添い寝してやるからもっと寝てなさいよ」

そう言って土方を布団に引きずり込むとぎゅーっと抱き締めた。

どうやら寝惚けているようで、銀時は満足そうにまた目を閉じた。

それから、思わぬことに身動きできずにる土方の背中をあやすようにポンポンと叩く。

「お仕事忙しいのは分かるけどさぁ、ちゃんと休むのも大事だろ。銀さんのハンドパワーはバツグンの効果があるから大丈夫」

すごく優しい声で言われ、土方のドキドキは止まらない。

誰に言ってるんだろう。

銀時は自分の姿になっているし、自分の顔を見て笑った。

だけど、そんなはずがないと思う気持ちが強すぎて、土方は簡単な答えが出せずにいる。

そんな土方に銀時は明確な答えをくれた。

「だから土方くんは鬼の副長らしく頑張ってろよ」

嬉しいと思った。

だけど同時に胸が苦しい。

やたら雄弁な寝言だったけれど、所詮は寝言で、変わった夢を見ているだけだ。

銀時の暖かい腕に抱かれながらも、まだ現状を否定する土方。



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