原作設定(補完)
□その32
22ページ/25ページ
#319
作成:2017/11/15
沖田に逃げられかぶき町を一人で見回りしていた土方は、神楽にばったり遭遇した。
痛烈な皮肉を言われる前に退散しようとしたら呼び止められ、
「ニコ中……コレ……」
モジモジしながらハートのシールが付いた封筒を差し出される。
どうみてもアレなアレだったが、土方にアレなアレは無かったので、申し訳ないような微妙な顔で断ろうとしたら、
「…………俺はガキに興味は……」
「誰が私から言ったアルか!渡してくれって頼まれたアル!!」
食い気味にきっぱりと否定された。
そこまで力いっぱい否定されるとちょっと複雑ではあるがホッとしたと同時に、土方の胸はドキリと脈打つ。
『……頼まれたって……もしかして……』
頭に浮かんだのは銀髪天パーのだらしない顔の男。
土方はもう長く銀時に絶賛片想い中だった。
銀時も同じ気持ちでいてくれて、直接言えない想いを手紙にして神楽に頼んだんじゃないのか。
そんな願望にも似た疑問が湧くが、
「……だ、誰に頼まれたんだ……まさか……」
「タバコ屋の近くの美人ネ。ひゅーひゅー」
神楽はまたしてもあっさり否定してくれた。
淡い期待をしてしまったばかりに、神楽に冷やかされてもちっとも嬉しくない。
「…………悪いがそれは受け取れねー。返しといてくれ」
虚しい気持ちになってしまったのでこの場はさっさと逃げようと、素っ気無く言って背中を向けた土方に神楽が言った。
「銀ちゃんなら良かったアルか?」
驚いて振り返ったら神楽はにやりと憎たらしい顔で笑っている。
平静を装ってシラを切ればよかったのだが、土方はまんまと動揺してしまった。
「……な、なななな、なにがっ……」
それに対し神楽のほうは何でもないことのように答える。
「お前が銀ちゃんを好きなことなんてずっと前から知ってるネ」
「……な、なななな、なんでっ……」
「お前んとこのドSガキが教えてくれたアル」
『総悟ぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
どうやら情報源は沖田のようで、土方の気持ちを知っている数少ない人間の一人だ。
ついうっかり沖田の誘導尋問にのせられて白状してしまったのは土方だった。
『…アイツに知られた自分のせいか……』
分かっているので沖田にも神楽にも文句は言えない。
それよりも気になっているのは、この機密事項がどこまで漏れているかということ。
チラリと神楽を見て訊ねてみたら、
「…………アイツはこのこと……」
「銀ちゃんは知らないアル」
きっぱりと断言してくれたので内心でホッとする。
沖田よりも神楽のほうがよほど信用できた。
「……そうか……このまま黙っててくれると助かる」
一応念のために重ねて頼んでみたら、予想外の言葉が返ってくる。
「言いにくいなら私から言ってやるアルか?」
いつもみたいにバカにされてからかわれるのかと思っていたのだが、気を使われてしまったようだ。
土方が本気だと知って同情してくれたのだろうか。
誰から伝えようとも自分の気持ちが銀時に通じるとは思っていない土方は、優しげに笑って言った。
「……ふっ……言うつもりはねーよ」
だが神楽は全然引かないどころか、自信満々に提案してくる。
「大丈夫ネ!銀ちゃん攻略なら私にまかせるヨロシ!」
「あ?」
「銀ちゃんは割りと単純アル。遠まわしにアプローチするよりガツンドカンと行ったほうが良いネ。積極的にグイグイいったほうが説得力があるアル」
「……だけど……」
「それにめっさメンクイアル。お前のことも"男は顔じゃねーし"なんてひがんでたから、きっとイケメンだと思ってるネ」
「…………」
「バーンと行ってドーンと告白してガーンとぶつかってみろヨ!」
抽象的で分からないところもあったが意図は伝わった。
本当に銀時とどうこうなりたいと思ってないなら、こんな不毛な気持ちは忘れてしまうほうがいい。
それを未練がましくウジウジ抱えているのは、仲が悪いながらも距離が縮まっているから。
顔を合わせても喧嘩をする回数も減り、世間話程度の会話をすることも増えているから。
もしかして、なんて考えてしまうから。
なんだかんだで銀時の一番身近にいる神楽の言うことなら、信憑性があるような気がした。
それでも、と躊躇う土方に、
「自分を信じるアル!うまくいったら酢昆布奢るヨロシ!」
発破をかけて神楽は帰って行った。
.