原作設定(補完)

□その32
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#318

作成:2017/11/12




「別れよう」

非番の日に予定通り現われた土方は、おもむろにそんなことを言い出した。

銀時はソファでジャンプを読んでいた視線を土方に向ける。

久し振りの逢瀬を喜んで飛びついていたのは最初の頃だけで、今ではジャンプを優先したりもできるぐらいの付き合いだ。

だが二人の間に明確な宣言はなく、なので銀時はしらっとした声で言った。

「付き合ってたっけ?」

事実のはずなのに真剣な顔をしていた土方に、一瞬だけ寂しさが混じったような気がする。

ショックだったのだと気付いて銀時は慌ててわざとらしく明るい声を出す。

「嘘嘘。銀さん、別れたくないんですけど…」

そんな言い方をしたのも、土方の言葉を真剣に受け止めていなかったせいだ。

"なーんちゃって"と笑ってくれるのを期待したのだが、真面目な土方にそんな期待はムダだった。

ふざける銀時に不機嫌そうな顔をする。

「てめーはそうでも俺はもう無理だ」

「無理って何が? 俺が何かしましたか?」

銀時の軽口に土方は怒ることもなく、呆れた顔で銀時を見た。

「何かって……仕事しねー、足臭ぇ、給料払わねー、ガキ共に尊敬されてねー、足臭ぇ、デート代も払えねー、エッチがしつけぇ、足臭ぇ」

「ちょっ、なんで足臭いを三回言った!?そんなに!?」

土方がつらつらと上げた理由に銀時は思わずツッコミを入れてしまったが、傷付いたかと言われればそうでもない。

なんでかというと、

「……つーかさ、そんなの言われ慣れてるんですけど?」

土方はしょっちゅうそんなことを言っては銀時をからっていた。

眉間にシワを寄せて嫌そうに言っても、目が笑っていたのを知っている。

だからそれが理由にはならないし、土方もそれは分かっているような顔だった。

「……言われ慣れてるからって反省してねーだろ。そういうところが嫌なんだよ」

「じゃあ反省して全部直す…………直すよう努力する」

銀時は珍しく真面目な顔で宣言してみたのだが、土方の表情は崩れない。
それどころか気に入らないという顔で、

「……てめーだって俺に不満とかあんだろーが……」

逆に問いかけてみたら、銀時はあっさりと答える。

「あるよ」

即答されるとそれはそれでムカつくものだ。

土方に睨まれたが、銀時はちゃんと答えてやった。

「マヨ盛りすぎて気持ち悪いとか、ツンが多くてへこむとか、仕事仕事ってうるさすぎとか」

「……だ、だったら……」

「だけど、そんなのお前に会えなくなるぐらいなら我慢できるっつーの」

何でもないことのようにそう言った銀時に、土方の表情が小さく緩んだのを見逃さない。

「……でもお前は俺の嫌なところは我慢できねーんだもんな」

「……そ……それは……」

「いいよ。分かった。じゃあ、寂しいけど……ものごっさ悲しいけど、もう土方くんには会わな……」

「違う!」

土方が耐え切れずに言葉を遮ったのを、銀時は内心でほくそ笑む。

どうやら土方にとって別れ話のほうが不本意だったらしい。

「……違うって何が?」

「お……俺だって……我慢ぐらいできる」

「じゃあ何で別れ話なんてしてくれちゃったんですかね」

「それは……」

「それは?」

銀時がこのまま、なあなあにしてくれなさそうなのを察し土方は諦めて白状した。

「……そ、総悟と賭けを……」

「賭けぇ?別れ話が?」

「……成り行きで付き合ってるならするてめーはすぐ了承するだろう、って言うから……」

土方らしくない、というか、土方らしい、というか。

土方が沖田に振り回されるのはいつものことだが、それに素直に乗っかって別れ話なんて持ち出したのはらしくない。

それに腑に落ちない点もあった。

「沖田くんが別れるほうに賭けたなら、土方くんは別れないほうに賭けたんだよね?」

「……そうだ」

「その割には別れるほうに持ち込もうと食い下がってくれたじゃん。本気で別れたいって印象でした」

別れたくないなら、最初に"別れたくない"と言ったことで賭けは土方の勝ちだった。

なのに銀時の欠点まで連ねて別れ話を粘ったことに、まだ別な理由がありそうだ。



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