原作設定(補完)
□その32
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#316
作成:2017/11/07
「はぁぁぁ……気持ちいかったぁぁぁ……」
土方の汗ばむ身体を息も整わぬうちに抱き締めて、銀時は満足そうにそう呟く。
それに「俺も」と答えてやるような甘い関係でもなく、土方は黙ってされるがままになっていた。
こんな時間が嫌だと思わなくなったのがいつからだったか。
酔った勢いで始まった関係はそれっきりで終わることなく、土方が拒絶しないまま続いていた。
何故かと問われたら、さきほどの銀時の呟きに尽きる。
"気持ち良かったから"
男に抱かれるなんて初めてのことだったのに、苦痛も嫌悪も嘔吐もなかった。
それが酒のせいだったのかを確かめたくて素面でしてみたこともあるのだが、やっぱり同じで拒絶する理由を無くした。
男なので定期的にいろいろ発散する必要があり、付き合っている特定の女が居なければ同僚たちと一緒にそういう店に出入りすることもある。
面倒くさいと思いながら女を抱くより、銀時に抱かれているほうが楽だし気持ちが良いと気付いたのだ。
別にまあそれでもいいかと思っていたのだが、最近になって疑問を持つようになった。
なぜ気持ち良いと思うのか。
銀時としたのをきっかけに男に目覚めたというわけでもなさそうだった。
他の誰かと、なんて想像してみたこともあったが、どうもしっくりこないし試してみたいという気も起きない。
じゃあ銀時に限定する理由がなんなのか。
それを知りたいとずーっと頭を捻っているのだが、答えが出ずにもやもやするばかり。
なので、信頼できる人にお伺いをたててみることにした。
「へ、へえ、そうなんだぁ」
改まった顔で局長室にやってきた土方に、いろいろぶっちゃけられた近藤は複雑な気持ちでそう答える。
長年の戦友と、得体の知れない万事屋がそういう関係にあったことも寝耳に水だった。
本心では反対したいところだが、目の前で助言を求めるようにしゅんとしている土方を見ると、無下にもできそうにない。
仕事仕事で屯所に篭もってばかりいた今までを思えば、外に楽しいことができたのなら嬉しくもある。
しょうがないな、と近藤は心を切り替えて応援することにした。
「トシ、それはな……」
「土方さんが旦那のことを大好きだったなんて知りやせんでした」
上司として戦友として的確なことを言ってやろうとした近藤の後ろから、にゅっと姿を現した沖田がニヤニヤしながらそう言った。
一番知られたくない、知られちゃいけない相手の登場に顔色を蒼白にさせながらも土方は叫ぶ。
「そ、そそそ、総悟ぉぉぉぉ!!!? な、なに聞いてんだテメェェェェ!」
「聞かれたくねぇ話なら屯所でしねぇでくだせぇ」
「ぐっ」
盗み聞きしておいて正論を吐く沖田に、土方は反論できないぐらい動揺していた。
沖田に口喧嘩で敵わない土方に、助け舟を出すのも近藤の役目だ。
「総悟、盗み聞きだダメだぞ!めっ!」
「……はぁい、すいやせんでしたぁ」
まったく反省してない言い方で謝罪する沖田に土方は不服そうだったが、近藤は改めて言いたかったことを仕切りなおす。
「まあ、だけどな、総悟の言ったとおりだと思うぞ? トシは万事屋のことが好きなんだろ」
「………あ?」
「メロメロのエロエロのデロデロでさぁ」
嬉しそうな近藤とからかうような沖田に並んでそう言われ、ぽかんとしていた土方は嘲笑するように鼻で笑う。
「はっ。俺がアイツを?んなことあるわけねーよ。誰があんなヤツ」
本気でそう思っていた。
肉体的気持ち良さと、その相手に対する気持ちは別物だと信じて疑ったこともない。
普段の銀時とは喧嘩ばかりで気に食わないヤツ、それでかまわないと思っていたので考えたこともないことを、近藤に言われてしまう。
「そうか?お前らが喧嘩してる姿は楽しそうだったけどなぁ。そんなふうに思ったことないのか?」
「……な、何を?」
「万事屋と居ると楽しいなぁ、とか、気楽だなぁとか、安らぐなぁ、とか」
思い浮かべる銀時の顔は憎たらしい。むかっとする。
だけど自覚もある。
かぶき町に来ると銀時の姿を探していること。
姿を見つけると自分から喧嘩を売りに行っていたこと。
一人で静かに飲むのが好きなはずなのに、銀時の居そうな騒がしい安酒の店に寄ってしまうこと。
自分の行動に理由をつけたことはなかったけれど、近藤の言う"楽しい"を当てはめてみたらぴったっと合致した。
銀時と一緒に居ると楽しいのだ。
気楽で、安らいで、嬉しくて。
だから触れられても気持ち良いと感じるのだと。
「……っ!!!」
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