原作設定(補完)

□その32
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#313

作成:2017/10/27




真選組屯所、副長室。

うっすらと外が明るくなってきた肌寒い朝に、土方は目覚め布団の中で背伸びをする。

なんだか今日はとても気分が良い。

それはまだ記憶に残っている夢のおかげだった。

会えば喧嘩ばかりしている銀髪天パーの万事屋・坂田銀時。

夢の中の彼は始終自分に優しかった。
それを望んでいる自分。

だけど叶えられない現実。

だから夢に見たのだろうし、それで満足しているのが少し悲しくもある。

楽しい夢の余韻に浸っている時間はあまりなく、土方はしぶしぶ身体を起こして布団の上に置いた手を見て凍りついた。

夢に出てきた、それ以前に見慣れた白い着物が広がっていた。

屯所の自室にあり得ない物を見たのに、すぐに違和感で我に返ることができたのはさすが真選組副長。

銀時の着物から伸びている腕には神経がある。

土方の意思で動かしたり、布団の感触を知ることができている。

着物を着ているのは自分なのだと確信した土方は、そーっと髪に触れてみた。

ちょっと固めの短い髪は、ふわふわとした柔らかい感触に変わっている。

ずっと触ってみたいと思っていた銀色の髪に変わっていた。

それがどういうことなのか、結論を出したのは山崎だった。

部屋の襖をノックして返事を待たずに開けた山崎は、

「副長、おはようございます。早速で悪いんですが実は………………だ、旦那!?なんでここに!?」

部屋にいる土方に向かってそう言った。

やっぱりそうなのか、と土方は冷静にそう思う。

なぜなら前例があったからだ。

魂が入れ替わるという冗談みたいなトラブルに巻き込まれたせいで、数日間銀時の姿になっていたことを思い出す。

あの時は事故のせいで入れ替わったのだが、今回はそんな記憶はない。

だが他に説明がつかなくて銀時に電話して事の次第を訊ねなければと思ったとき、嫌な含み笑いとシャッター音が聞えてきた。

山崎の背後から、沖田がくすくすと笑いながら携帯電話のカメラを土方に向けて写真を撮っている。

「傑作でさぁ。やっぱり土方さんは万事屋の旦那のことを……ぷふふ」

土方の秘めた想いを、沖田は何度となく公のものにしようと企んでいた。

あくまでそれは沖田の憶測であって、土方はとぼけてシラを切りとおしたきたのだが、それに焦れて何かされたようだ。

「てめー……何をした」

そう言った土方の声ももちろん銀時の声だったが、それを喜んでいる場合じゃない。

問われて沖田は嬉しそうに手に持っていたものを見せる。

土方のところからは書いてある文字が見えなかったが、山崎が変わりに読んでくれた。

「"変身スプレー"? "頭の中に強く思い浮かべたモノの姿に変身できます"……って、コレを副長に使ったってことですか?」

「そうでぃ。寝ている土方さんに使ったから、夢にまで見るぐらい大好きな人の姿になるって算段でさぁ」

沖田は自信満々にそう言ったが、山崎のほうは割りと冷静に言い返す。

「沖田隊長〜、夢に見たからって副長が旦那を好きだってことにはならないんじゃないですか。ねぇ、ふくちょ………………」

あり得ない話に、土方に同意を求めようと振り返った山崎は、あり得ないモノを見た。

銀時の姿をした土方が真っ赤な顔をして動揺している姿だった。

バカみたいな小道具を使われたにしろ、こんな姿を晒してしまってどう言い訳をしようかと考えているうちに、口より先に顔に出てしまったのだ。

赤面した言い訳をさらにできるわけもなく、沖田はニヤニヤと写真を撮り続けている。


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