原作設定(補完)
□その32
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#311
作成:2017/10/18
かぶき町のメインストリートに、“壁張り付き男”が出現していた。
前身を壁に張り付かせ、当然前が見えないので横歩きで壁沿いに進んでいる。
背中に人の視線やヒソヒソ声が突き刺さっているが、ぐっと我慢して進んでいる男に声をかける強者も居た。
「土方さん?」
聞きなれた声に男は足を止めたが振り返らない。
「うわ、新八っ、こいつ何してるアルか? 覗きアルか?」
「土方さんが覗きとかするわけないよ。お仕事じゃないかな」
「壁掃除アルか? チンピラ警察も役にたつことをすることもあるネ」
勝手なことを言ってる子供らに、土方はようやく口を開いた。
「掃除でも仕事でもねー……お、お前らんとこに行こうとしてたんだ」
「え?万事屋にですか?」
「じゃあなんで壁に張り付いてるネ」
「や、やんごとなき理由があるんだよ」
まあ理由もなく壁に張り付いている人はいないだろう。
その理由を問いかける前に、土方が再度口を開く。
「……お前ら、二人か?」
「はい。あ、銀さんは別な仕事に行ってるので……って、銀さんに用事ですか?」
「というか、いつまで壁に張り付いてるアルか」
そう。新八と神楽に声をかけられてからも、土方は壁のほうを向いたままだった。
会話をするにはかなり不自然で失礼な体勢だったので、土方は躊躇ったあとゆっくりと振り返る。
その姿を見て新八たちは更に首を傾げた。
振り返ったのは確かに私服姿の真選組副長土方だったのだが、なぜか両目をしっかりと閉じて苦々しい表情をしていたのだ。
「土方さん? どうしたんですか?」
「ちょ、ちょっと……目を開けるわけにはいかねーんだ……」
目を開けられず前が見えないので、壁に張り付いて進むという滑稽なことをしていたらしい。
そんな状態で万事屋に来たかったというなら屯所の誰かに送ってもらえばいいのに、一人で来たということは他の誰かに言えないほどの理由があるということ。
何か特別な事情がありそうだと察した新八が、
「立ち話もなんですから万事屋に行ってからにしましょうか」
と言ってくれたので土方はホッとした顔をする。
さらにその手を、小さくて柔らかい手がぎゅっと掴んだ。
「まどろっこしいアル。手ぇ繋いでやるからさっさと行くね」
せっかちにそう言って神楽が土方の手を引いて歩き出した。
子供に手を引かれて歩くというのはいささか気恥ずかしかったが、壁を這っていくよりはマシだったし、正直助かる。
真選組の隊士らに会いませんようにと願いながら、土方は神楽と新八に連れられて万事屋に向かうのだった。
万事屋に案内された土方はソファに座って、新八にお茶を入れてもらい、それをちゃんと手に握らされるところまでやってもらっていた。
介護されているようだと思いながら、神楽の興味津々にじいっと見つめる視線に居心地の悪さも感じる。
気になっていたのか、落ち着いたところで新八は早速本題に入ってきた。
「それで、どうして目が開けられないんですか?」
世話になったのだから答えないわけにもいかず、土方はつい数時間前のことを思い出しつつ話し出す。
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「これで捕まえた攘夷志士は全員か?」
「はい。人数は合ってます」
「……雑魚ばっかりじゃねぇか。コイツらが“警察庁長官暗殺”なんてテロを計画できるわけねーだろ」
「コイツのせいじゃねーですかぃ」
「あ?……どっかで見た顔だな」
「あ!テレビで見たことあります!確か有名な催眠術師だとか…」
「催眠術師ぃ? なんだ、催眠術でテロを起こしたとでも言う気か?そんなことできるわけねーだろ」
「でも副長、こいつは本当にすごい催眠術師なんですよ!みんな簡単にかかってました」
「テレビ用のパフォーマンスに決まってんだろ」
「土方さんは信用しねーんで?」
「するわけねーだろ。くだらねー」
「じゃあ、術をかけられても大丈夫なんですよねぇ」
「あ?」
「コイツに術をかけられても土方さんはかからないし、信用もしてねーんですよね」
「……あ、当たり前だろ」
「さすが土方さんでさぁ」にやーり
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..
...
土方、催眠中
「あ、あなたが目を開けて……ほ、ホントにコレを言うんですか……」
「いーから言え」
「あなたが目を開けて最初に見た人を好きになります」
「…ちょっ、沖田隊長……」
「メロメロのエロエロになって仕事が手につかなくなります」
「……さすが沖田隊長だ……副長を弄んだ上に仕事もサボれる隙を作るとは!」
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