学園設定(補完)
□3Z−その4
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次の日の放課後、少し緊張しながら土方は国語科教科室にやってきた。
入る前に怪しげに辺りを見回して沖田の乱入を警戒したのだが、近藤に一緒に帰ってもらえるように頼んだのでたぶん大丈夫だ。
ノックをしたら中から銀八の返事が聞えたので、ホッと息をついてドアを開けた。
「よしよし、ちゃんと来たな」
「……当たり前だろ……」
感心したように笑った銀八に、土方も素っ気なさそうに答えたが本当は嬉しそうな顔をしたかった。
沖田が言っていたように素直で可愛いい生徒だと思われたいのに、もともとそういうことが苦手なのだ。
長テーブルに座ると銀八に指示されたとおりに、サボった授業のレポートを書き始める。
国語は得意……というか、銀八の教科なので勉強を頑張ったし成績は悪くない。
「ここで勉強するのはバカなヤツばっかりだから、土方が座ってると不思議な感じだな」
「勉強?」
「赤点の連中が集まってここで勉強してたんだよ。バカが集まったって問題解けるわけねーのにな。仕方ねーから俺が教えてやったりなぁ、めんどくせーけど」
『その手があったのかぁぁぁぁ!!』
赤点をとってればもっと銀八の側に居られて、勉強も見てもらえたんだ。
真面目に勉強して良い成績をとっていたばかりに、余計に目立たない生徒になってしまっていたことに初めて気付いた土方だった。
しょんぼりしながらレポートを書いている土方を見て、「?」と思いながら銀八は笑う。
「そういえば、お前、部活は? 来るのもっと遅くなるかと思ってたぞ」
「!!」
どうやらそれは禁句だったらしい。
しょんぼりを通り過ぎてがっくり項垂れている土方に、銀八は首をかしげる。
「どうした?」
「……部活はもうねー……引退したから……」
「あ? 引退は大会が終わってからじゃ………って、もう終わったのか?」
「……全国常連の優勝候補校に一回戦で当たって……」
「あー……おつかれ」
落ち込みながらも土方はレポートを書く手を動かしているので、銀八はもう少し聞いてみた。
「それにしては教室ではみんな明るかったじゃねーか」
近藤を部長に、土方を副部長においた剣道部員が銀八のクラスには多数いて、全員が普通の様子だったので一回戦負けしてたとは気付かなかった。
「それは……落ち込んでたら近藤さんが気にする……」
「近藤のせいで負けたのか?あいつが大将だろ?」
「結果的にはそうなるけど、団体戦は全員の責任だからそれはいいんだ……ただ、組み合わせ抽選会でくじ引きしたのが近藤さんだったから……“俺のくじ運が悪いせいで”って試合前からがっかりしてたんだ」
勝ち進んでいればいずれは当たる相手とはいえ、全国大会目指して3年間頑張ってきた最後の試合が一回戦となると無理もない。
それでも全員が勝つつもりで挑んだ試合だったが、接戦の末、近藤が負けた瞬間に“両校”から歓声が上がった。
「お、お前ら、何、喜んでんだぁぁぁ!」
負けた悔しさより驚きで叫んだ近藤に、3年生も後輩達も嬉しそうな顔で言う。
「だって負けたからもう厳しい稽古は終わりでしょ。夏休みは遊べるじゃないですか」
「最後の夏休みぐらいのんびりすごさせてくだせぇ」
「……お、お前ら帰ったらすぐに稽古だぁぁぁぁ!!」
「えええぇぇぇぇ」
もう夏休みに遊ぶ気満々の部員たちに、近藤は怒って落ち込む暇もなかったという。
だがそれは“わざと”だったと話を聞いていた銀八もすぐに気が付いた。
「……打ち合わせ済みだったのか」
「負けたらそう振舞おうって決めてた。落ち込むよりいいかと思って……」
本当はもっともっと一緒に稽古も試合も続けていたかった。
近藤を全国大会まで連れていきたかったし、怒らせるより喜ばせてやりたかった。
悔しくて悲しい気持ちを飲み込んで夏休みだとはしゃいだ部員たちに、もちろん近藤も気付いていたのだろうと思う。
帰ってから本当に稽古をつけた道場で、近藤が嬉しそうに笑ったのを土方は知っている。
それを思い出してしんみりしていた土方は、つい語ってしまったことに気付いて銀八を見たら、
「お前ら、本当に近藤が好きな」
何か昔のことを思い出しているかのような懐かしむ顔をして笑うので、土方の胸が締め付けられる。
言葉は軽かったが、近藤が好きで大切すぎて盲目になりがちな土方の気持ちを分かってくれた、そう思うと嬉しくなってしまったのだ。
銀八が自分で思っているより”適当でいい加減な教師“じゃないことを、土方を含めてクラスの生徒は知っている。
ときどき……すごーーーーくときどき見せる教師っぽいところが、土方のように真面目で堅物の生徒を惹き付ける……のは、銀八も土方も気付いていないことだった。
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