学園設定(補完)

□3Z−その4
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今まで接してきた適当でちゃらんぽらんな銀八からは想像できなかったことなのかもしれないが、大人なので本当に悪いと思ったときぐらい謝るのだ。

「勝手に聞かれた上に気まずい思いをして授業に出れないとか、はた迷惑な話だったよな」

そう言われて土方が辛そうに目を歪ませる。

銀八にソレを言われてしまったら自分のほうこそ、勝手に好きになってそれを聞かされた上に、気まずくて授業に出れなくなったことを申し訳なく思わせて謝らせてしまっているのだ。

そんな風に罪悪感を抱えている土方の様子さえ、銀八には不思議でついつい聞いてみたくなった。

「なんで俺なんか好きになったんだ? 自分で言うのもなんだけど、好かれるようなことした覚えねーんだけど」

ド直球で訊ねる銀八に、土方は一瞬言葉に詰まったようだったが、なんとか言葉を搾り出す。

「そんなの俺だってわかんねーよ……でも好きだって思っちまったんだからしょーがねーだろ」

ふて腐れたように言ったせいかタメ口になっていたが、土方は気付いていないようだったし、銀八も気にしていない。

今回呼び出したのは、沖田に伝えたように授業の欠席分と、土方の気持ちをなんとか処理できないだろうかと思ったからだ。

我に返って“なんでこんな教師なんかを……やめたやめた”と思ってくれるのが最善なのだが、土方の表情は苦しげで、そう簡単に急には切り替えてもらえそうにない。

だったらできるだけ“そう思える”ように、きっかけを増やせばいいと銀八は考えた。

「……じゃあ、付き合ってみるか?」

「……あ?……」

「俺と付き合って、一緒に居れば理由が分かるんじゃないか?」

理由が分かれば思い改められるんじゃないか。

なんて、言ってしまってから自分でもおかしいことを言っているのは分かったが、

「………はぁ?何言ってんだ、バカじゃねーの」

土方のツッコミは辛辣でもっともだった。

だがそうズバリと言われてしまうと銀八のほうも面白くない。

「え? そっちの反応? あんまりじゃね?」

「……だって……ねーだろ……」

「……じゃあお前さ、どうしたいわけ?」

「…………」

そう追い詰めなくても、本当に土方はもともと銀八とどうにかなりたいと思っていたわけじゃないだろう。

沖田に気付かれてモヤモヤしていた背中を押されただけで、じゃなければ一生誰にも言わずにいたに違いない。

悩める子供をいじめるのは可哀想なので、沖田の変わりに背中を押してやった。

「だから、どうしたいか決めるためにも付き合ってみるのもいいと思うんだけどなぁ」

「…………」

しつこくしてみるのも諦めさせる第一手段だった。

どうしたいのか決めかねているところを急かされるとやる気を無くしたりする。

自分がそうだったので銀八は試してみたのだが、土方は急かされると逆にやる気を出すタイプだったらしい。

「……分かった。うん」

銀八の言うことも一理あると、力強く頷いて土方は交際を了承した。

内心“あ、そう”とがっかりしながら、言いだしっぺなので銀八もその気になるしかない。

「それじゃあ、明日から毎日ここに通うように」

「こ、ここ? 毎日?」

土方は顔を赤らめて何か恥ずかしいことを想像したらしいが、あいにくその期待には答えてやれそうになかった。

「授業をサボった分、レポート提出な」

「え!?」

「受験生だろうが。ちゃんと点数やるから」

「……は〜い」

しょんぼりと肩を落とした土方だったが、部屋の中をキョロキョロと見回して、ここで銀八と一緒に居られるなら悪くないと思ったらしい。

ちょっと嬉しそうにしている土方に、水を差すようだが言っておかなければいけないことがあった。

「あ、それから、沖田には注意しろよ」

「あ? 総悟?」

「生徒と付き合うなんてバレたらクビだからね。沖田に知られてみ?」

「……明日には先生、無職ですね」

「だろ〜。だからアイツにはバレないように、しくよろ」

「…はい……やってみます」

敬語に戻ってなんだか素直になった土方に、銀八は嬉しそうに笑った。




「土方さぁん、銀八、なんですって?」

「れ、レポート提出したらサボったこと許してくれるって!」

「……それだけですかぃ?」

「そ、そうだよ。あ、明日から銀八んとこでレポート書くから……」

「ふーん」

全然納得してなさそうだが大人しく引き下がった沖田に、土方はドッと汗をかく。

相談している間は親身になってくれる友人だったのだが、我に返ってみれば面白がっているのが丸分かりの嫌な友人だ。

自分で“遊ぶ”ためならなんでもするヤツだったのを思い出し、なんとしても銀八とのことは隠し通そうと決意する土方だった。


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