原作設定(補完)

□その31
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夜遅くの玄関の呼び鈴に、銀時は眉間にシワを寄せて立ち上がる。

「ったく……すいませ〜〜ん、明日にしてもらえませんかぁ」

「……俺だ」

半分眠りかけた頭はその声で覚醒した。

すぐ誰なのか分かったが、一瞬扉を開けるのを躊躇ってからゆっくりした手つきで鍵をはずした。

疲れた顔をした土方が扉の向こうに立っていて、銀時を窺うように尋ねる。

「入っていいか?」

「……どうぞ。なに? お仕事は?」

「予定が変わって半休になった」

半休でこんな夜中に万事屋に訪問したら、屯所に帰るのは昼前になるのがいつものコースだ。

前の銀時ならなかなか会えない時間を攻めるのも忘れ、バタバタと振る尻尾の幻覚が見えるほどに喜んでくれたのに。

「……ふーん」

素っ気ない返事をして先に部屋に戻って行ってしまう。

追い返されなかっただけマシな対応に、呼び鈴を押すまで使うか使うまいか思案を続けていた物を、使う決心がついた。

乗り気じゃない銀時に構わず土方も部屋に続くと、点いたままのテレビとテーブルの上のいちご牛乳。

どうやらソファに座っていちご牛乳を飲みながらテレビを見ていたようだ。

「……チャイナは?」

「……今日はお妙んところ」

丁度良かった。

乗り気じゃない銀時を、今から外に連れ出してホテルで仕切り直すなんてことはできなそうだったから。

「……なんか飲み物くれるか?」

「ん」

銀時が台所に行っている隙に、いちご牛乳に小瓶の中身を少し流し入れる。

無味無臭なのは自分で確認したから銀時に気づかれることもないだろう。

お茶を入れて戻ってきた銀時が、ソファに座り直していちご牛乳を飲むのを見届ける。

もう後戻りはできない。

土方が黙ってお茶を飲んでいるのが銀時にとっても都合が良かったのか、テレビを見つめたまま何も言ってこなかった。

薬の効き目は10分程度で現れるはずだったのだが、10分過ぎても20分過ぎても銀時に変化はない。

『あれ?』

薬の量が少なかったのか、いちご牛乳との組み合わせが悪かったのか、そもそも本当にそんな効果のある薬だったのか。

土方が内心で悩み始めたころ、銀時はうーんと背伸びをしてリモコンでテレビのスイッチを切った。

それからやる気のない顔で、

「土方、泊まってくの?」

なんて聞いてくる。

恋人にそんなことを聞かれるほど屈辱的なことはない。

返事をしない土方に、銀時はさらに無情なことを言ってきた。

「だったら今日はここのソファで寝てくれる?銀さん、明日朝早いからさー」

薬の効き目が現れるまで待てなかったし、土方の我慢の限界だった。

「万事屋!てめー……」

勝手なことを言って和室に逃げようとする銀時の腕をつかんで、もう言いたいことすべてぶちまけてやろうと思った土方の手は、思いがけない強い力で振りほどかれた。

「触んな!!」

そう叫んでふらふらと和室の襖に背中を預けた銀時は、顔を伏せたまま苦しそうに肩で息をついている。

「……はっ……んだこれ……」

呟くように言って不思議がる銀時の身体の変化の理由を、土方は知っているからそこ『あれ?』と思った。

万事屋に来てからもずっと突き放されたような態度しかとられていなかったのに、効果がでる時間を過ぎても平気そうにしてたのに、症状が現れているように見える。

「万事屋?」

「……あー……やっぱさ、悪ぃんだけど今日は帰ってくんない?……ちょっと……お前の相手してる時間ねーわ」

それでもまだ土方を拒絶するような物言いしかしない銀時だったが、その理由が身体の変化を隠すためだとしたら。

自分に対する気持ちは変わらないのに素っ気ない態度を取らなければいけない理由があって、それに気付かず媚薬を飲ませるようなことをしてしまっていたとしたら。

銀時の気持ちを確かめたというのに、土方の胸は今まで以上に痛んだ。


「万事屋……ごめ……」
土方の呟きに銀時が眉間にシワを寄せたまま顔を上げる。

怒らせてでも帰らそうとしてあんな言い方をしたのに、

「何が………って、土方?」

怒るどころか泣きそうな顔をしていた。

こんな表情は一度も見たことがなくて、身体は近寄って触れて何があったのかを聞いてやりたがっているが、精神がそれを拒絶する。
  
近寄ってはダメだと警告する。

そんな風になってしまった理由は、苦悶する土方の口から語られた。

「……実は……」



ソファに向かい合って座る二人だったが、土方はしょんぼりと肩を落としてうなだれ、銀時は両ひざを抱えて自分の身体を抑えつける。

土方のしでかしたことを聞いて、銀時は深いため息をついた。

「…で、とんでもねー薬を俺に盛ってくれちゃったわけね……なにしてくれてんですかコノヤロー」

心底呆れたという言い方をされると、深く反省している土方としても一言言ってやりたくなってしまう。


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